夕日が沈み始めた頃の教室では、きつい香水の匂いが漂い、その中で不貞腐れて頬杖をつく女子生徒が、目の前の作文と自身を見つめる教師と睨めっこをしていた。

作文用紙には幾度となく斜線が引かれ、端には何やらマスコットの落書きまでされている。

女子生徒の薄く金色に染められた髪が風にさらわれ、耳たぶについているピアスが顔を覗かせた。

「あぁぁああ!!もううんざり!!」

手にしていたシャーペンを机に投げつけ盛大に伸びをして、ばっと教師のオビトへつっかかっていく。

「なーんでアタシだけ生活指導で呼び出し!?
染めてるのもピアス開けてるのもアタシだけじゃないのに!」
「お前が一番派手だからだ。」

うぐっ…と言葉に詰まり俯いた先に映ったのは"反省文"と丸っこい字で書かれたマス目の紙。
勢いよく立ち上がったせいで旗めいた丈の短いスカートが次第に戻り、無名もまた力なく椅子に腰掛けた。

「他の奴らはお前ほど暇じゃない。
派手な分、部活を頑張っているようだしな。」

より一層膨れていく無名の頬を引っ張ってはこの状況を楽しむかのように吊り上げられていけオビトの口元をみて、更に腹が立っていく。

もともと、髪を染めてピアスまで開け、先生たちに叱られてまでこんな姿をしているのは、他ならぬオビトのためだった。

たまたま廊下で他の女子生徒とオビトが話しているのを聞いたのだ。

『規則に縛られるのではなく、自ら規則を破りにいく。
そういうやつは、嫌いじゃない。
……ま、だからって校則は破るなよ。」

と、好きなタイプを問われてオビトはこう答えていた。

生活指導のくせに。

その時から無名は長かった髪を切り、染め、そして今に至るのだが、自分のせいでそうなってしまったことを知っているオビトとしては、内心ハラハラしていた。

たかが"オビト"と言う一人の人間のためにここまでする無名に、いけないことだと分かってはいても、惹かれずにはいられなかったものだ。

いくら校則を破ろうと、容姿も愛想も良い無名を好かぬ者は、いない。

教師である自分より生徒同士の方が近付きやすいのは当たり前で、無名が男子生徒と話すのを見かけるだけでハラハラドキドキしていた。

仕事とは言え、夏休みに生活指導と称してまで呼び出し、二人だけの時間を作っていることに喜びを感じているなど口が裂けても言えない。

だが、一見不満そうに見える無名も、そっぽを向いた顔がうっすらと赤いのが分かる。

「満更でもないだろう。」
「な、何がよ!」
「いや、別に。」

意味がわからないと言いたげたその頬をまた引っ張りながら、自分の表情が緩んでいくのを感じた。


じんわりと感じる熱

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