掴むまで 1/1
出会った当初から少し見上げていたサスケくんの頭があれ、おかしいな、とても遠く感じる。
「真鶴、飯はまだか。」
どこぞのお父さんかなと思わせるような口ぶり。 前はもっとクールを装ってる実は純粋な可愛い男の子だったのに、今では本当に表情変化に乏しく口調も冷たく単調になってしまった。 大きかったけど、可愛かったのに。
成長し続けている彼と、私。 時々サスケくんは私をじっと見下ろして、小さいなと呟いていた。 身長、伸びないんだよ〜なんて冗談めかして言って、不自然に思われないよう、靴の底を数ミリずつ上げている。 死んで蘇るって地味に苦労するなと思った。
「今日もおにぎりなんだけど、いいの?」 「ああ、それでいい。」
昔、本当に大昔に、母の料理を手伝って褒められたことがある。
忍だからって誰かを守ることばかり考えないで、ちゃんと料理して胃袋を掴んでいい人見つけるのよ。 と、母は嬉しそうに、悲しそうに言っていた。
このアジトに住んで以来、私はサスケくんの身の回りの世話を任されていた。 母が入院してしまってから、一人暮らしをしい入られてきた…と言っては不服に聞こえるだろうが、あの頃の私は余りにも幼かったから強ち間違いではない。 だがそのおかげで家事や任務を終えてからの手当てはお手の物だ。
サスケくんについて1ヶ月目は、腕が鈍っていないか心配だったため、感覚を取り戻すために自分が好きであり得意な卵料理を振る舞った。 卵はしょっぱい派なんだって! 甘いものが苦手らしくて、甘い卵焼きの時は清々しいくらいの嫌な顔をされた。
3ヶ月も経つと、卵料理以外の作れるものを片っ端から作って、サスケくんの好みが分かってきた頃には、どれくらいのペースで好物を混ぜようか〜なんて計画も立てた。
1年。 大蛇丸さんに放し飼いにされていて自由なのでアジトを離れて外に遊びに行ったら帰りが遅くなってしまった。 ごはんの時間に間に合わないなと、余ってるお米と、辛うじて残っていた食材でおにぎりを作って謝りながらサスケくんに差し出した。
それからだった。 サスケくんはいつも昼はおにぎりが良いと初めて私に意見を言ったのだ。 私の作るものを文句一つなく食べてくれていたサスケくん、まぁ顔をしかめられることは多々あったけど、そんなサスケくんが、初めてだった。
どうして?と聞くと、彼はぷいっと顔を背けて「おかかが、好きだ。」と、明瞭淡白なサスケくんとは思えない声でボソボソ言っていた。 あっ…すごい、可愛い。 冷たーいサスケくんも、理由もなく可愛いなって感じるのに、これが秘められたサスケくんの本性なのか!と優越感に浸ったし可愛かったしで二重に萌えた。
おにぎりを見事に短時間で平らげてくれたサスケくんの横で、食べ終わるのを待っていましたとばかりに私は彼の前に歩み出る。
「手当て、するね。」 「ああ。」
でもふとした瞬間が、寂しい。 前までは頼むとか、あったんだけどなぁ。
もう大蛇丸さんのやることに驚きはしないが、13歳の男の子に呪印をつけるのはどうかと思う。 酷な、と口にしたくもなったが、サスケくんは望んで呪印を自分のものにしようとしているようで日々修行に励んでいた。
「サスケくんはいつも切り傷より火傷だよね。 カブトに治してもらった方が早いし、私あんまり役に立ってないでしょ。」 「…助かっている。」 「うん…そっか。」
私が何をしようと、サスケくんが私を突き放すことはしない。 休憩中や、その日の修行が終わって手持ち無沙汰な時も、彼はただ私の行動を目で追っていた。 そして私が視線に気付いてそばに寄っていくと、微かに表情が和らぐのだ。 サスケくんも寂しいのかな?
私たち二人の間の会話は決して多くはなく、基本私が話しかけて、サスケくんが時折相槌を打つ。 彼にとって家族、うちはの話はタブーであり、それは私も同じだった。 するのは、その他の他愛のない話だけ。
「お前は何故大蛇丸と共にいた。」
突然包帯を黙って巻かれていたサスケくんに話しかけられて肩が跳ねた。 多分出会った時から気になっていたであろう質問、一緒にいて一年経ったから、そろそろ聞いても良いと思ったのだろう。
「私、小さい時からいつも大蛇丸さんのお世話になってたの。 …物心も付いてない時だったから、よく覚えてないけど。」
嘘を吐いた。 仕方ないとはいえ、罪悪感はあった。 私だって忍だし頭は悪くないから、もし私が死者だなんて公言したら、色んな里や犯罪者から大蛇丸さんが狙われてしまうことは分かる。 でも、サスケくんになら話しても大丈夫かなと、無口な彼を見て思うのだけれど、念には念をだ。
「そうか。…悪かった。」 「ああ、いいんだよ! 気になっちゃうのも分かるから。」
慌てて首を振ると、彼は呆れたように鼻で笑って、そして腕を上げて頭を撫でてくれる。 いくら身長が伸びないとはいえ、これでは子ども扱いが過ぎるではないか。 …とは言えないのがまた悔しい。
「そういえばね、大蛇丸さんとカブト、あと二、三日で戻るって。 帰ってきたらもっと修行も厳しくなるんでしょ?」 「手合わせはしてくれないのか。」 「しばらくは体を動かすなって言いつけられてるの。 サスケくんと組手なんてやったら絶対安静なのに半殺しにされちゃう。」 「どこも悪くないだろ。」 「悪いんですぅ、頭が。 …今日はよくしゃべるんだから。」 「少し横になる。」
体を横たえ、すぐ瞼を閉じてしまう。 この子絶対結婚したらちょっとした亭主関白になる気がする。 素直じゃないし上から目線なところもあるけど、実は純粋だったりする子だ。 里にいた頃はさぞモテたんだろうなぁ、と綺麗に整ったサスケくんの寝顔にべーっと舌を出してから、私も彼の頭の横に腰かけた。 すると当たり前のように私の太ももに頭を乗せる。 困るほど可愛い子だ。
「明日は私いないよ。 大蛇丸さんたちが帰ってくる前にまた村に下りてお買い物しなくちゃ。 おにぎりは作り置きしておくね。」
返事はないけど、意外と聞いてるから大丈夫。 不便なことに食材を買うのにかなり離れた村まで行かなくてはならない。 アジトの近くに人里なんてあるわけないのは当然重々承知の上だし、疲労を感じない体だから良いのだけど、背徳感はある。 ビンゴブックに名を連ねる犯罪者を養っているのだから、笑っちゃうよね。
でもサスケくんの胃袋は掴んだからグッジョブ私!
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