鳴き声は高らかに | ナノ




拳は天高く突き上げてこそ
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扁額の下にその男は座っていた。少女は男とは反対側の柱で足を止める。門の内側から二人の姿は見えない。

男は少女を一瞥し「丁か。」と、どこか懐かしげに名を呼んだ。


「何をしている。
ここは子どもの来る所ではない。」

「あんたこそ、何してるの。
とんだ命知らずなことをするんだね。」


問いかける口調ではあるものの、互いの目的を既に理解していた。男は目を伏せ、口元を歪める。少女は無感情にその様子を見つめていた。

敷地内から聞こえる演説、雄叫びは二人の間に流れる静かな空気とはかけ離れている。


「全く解せんな。まだ幼い子に汚れ仕事をさせるなど…。」

「私達は殺しをする為に育てられた。
それ以外の生き方を知らない。」

「知りたいとは思わないのか。」


少女の唇が小さく震え、そして結ばれる。
知りたくない…訳ではなかった。ただ、知る勇気がいつまで経っても現れてはくれないのだ。


「知れるのかな。」


暫くの沈黙の後に、少女は呟いた。

男は少女の目が揺れるのを見て、ふっ、と笑った。何故笑うのだと責める少女を他所に、晴れ渡る空を見上げる。
少女は男の視線の先を追い、眩しさに目を細めた。


「決心がついたら呼んでくれ。
いつでも、生き方探しの協力をしよう。」

「でも私は、」

「自由になれるかどうか、それはお前次第だ。
足掻け。変われるよ、お前なら。」


それを言うと、男は立ち上がり、背を向けた。


「次会った時は、古い名を呼ばせるなよ。」


去って行く背中を見送り、拳を握りしめた。
次に会うまでに、どれだけの人を手にかけているだろう。
今、門の敷居を跨いだ向こうにいる男達は、何人残るのだろうか。

新たな時代へと移ろう中で、使い捨てられていく。自分も道具の内の一つに過ぎない。
男の言うように、道具としての生を抜け出し、自由を掴めるのか。


ただ、少しだけ、足掻きたいと思った。


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