家庭訪問は手土産必須 2/2
「多串くん?あぁ、あの多串くん。」 「樹さん、知ってるんですか?」 「ぜんっぜん。誰なのそれ。」
「税金泥棒だ税金泥棒! ったく、腹立つ。」
「税金泥棒……えっ、まさか真選組と一悶着起こしたんですか!? 何してんですかアンタは!」 「るせーなあっちが勝手に仕掛けてきたんだよ。」 「あんた今更すぎじゃない?」
そう、今更すぎるのだ。 聞けば銀時は長く江戸にいるらしいが、今の今まで真選組に会わずに済んでいた。 何故だ。 同じ町に、こんなにも近くにいるのに。 悪運が強いのか。
「大体騒がしくなったのはお前らを雇ってからだろーが。 何が悲しくて面倒事を招く人間を掛けてんだか。」 「人を疫病神みたいに言わないでくださいよ!!メガネ本体じゃねぇし!」 「本当ネ、そんなメガネさっさと割るヨロシ。」 「神楽てめーもだ。」 「女の子に疫病神はないんじゃないの。」 「人のこと言えないからね分かってる!?」
まばたきすると箱いっぱいに入っていたスイーツが消えていた。 他でもない神楽の腹に消えたのだ。 糖分が!と悲鳴を上げ始めた銀時にこれ以上絡むは気が引けるので、今日も早々に切り上げようと思った。
「じゃあ私そろそろ帰るから。」
立ち上がると懐から小銭の音。
「おい。」
金の音で眼を輝かせた銀時の顔面に、小銭の入った小さな袋を叩きつけて、玄関へ。 元からケチくさいやつだとは知っていたが、こんなに金に飢えていたのかと思うとちょっと恐ろしい。
「貰ってよかったんですか?お金…」 「構わないよ、お釣りだし。 子どもへのお駄賃だと思って銀時に与えて好きにさせといて。」
じゃあ、また来るから。
玄関が閉まったのを確認すると、新八はまた居間へ、小銭を数えている銀時の向かい、神楽の隣に腰かけた。
「また帰っちゃいましたね。」 「何でもっと遊んでくれないアルか。」
樹は、万事屋に足を運んではくれるが、いつも買って来た菓子を食べるだけで、すぐに帰ってしまう。 それが子どもたちには、寂しかった。
「あいつはまだ模索してんだよ。もう少し待ってやれ。 …あ、280円しかねぇ。来週のジャンプ代だなこりゃあ。」
詳しいことを教えてはくれなそうだ。 銀時は樹をよく知っている。 彼が待てと言うなら、待ってみたいこともないだろうと、新八と神楽は顔を見合わせて、そして大きく頷いた。
万事屋を出て、街中へ。
行く当てもなくぶらり散歩をする。 木造住宅が減り、景色がどんどん灰色になった頃、気付けば前方から高価そうな車が走って来るではないか。 運転席の男は黒い隊服を纏っており、すれ違う寸前で車を停車させた。
「よォ、樹ちゃ〜ァん。 どうだ、これからおじさんとお茶でもォ。」 「禁煙してくれるならいいよ。」 「そいつァ、無理な相談だなァ。」 「じゃあヤダ。」
後部座席の窓を下ろしたのはグラサン掛けた厳ついおじさま。 手には煙草というか葉巻を持っている。
よくお茶会やら食事やらに誘われるのだが、生憎先ほど万事屋で自腹のプリンを食べた。 誘いを断った代わりに紙を一枚、手渡す…いや、押し付けた。
「なんだァ、こりゃあ。」 「隊士達が貼ったみたい。 ちゃんと叱っといてよ。 一般市民を挑発して事件に巻き込まないようにって。」 「世話が焼けるねェ。あぁい分かった。」
それじゃ、と手を振って別れる。
紙は町中に貼られた銀時への果たし状で、どさくさに紛れて一枚頂戴した。 片付けでも命じられたのか、途中見かけた隊士達は果たし状を剥がしながら「近藤さんと土方さんを負かした奴」と口にしていた。
銀時もメガネばかり責めてはいられない。 特殊な者は誰でも厄介ごとを持ち込む疫病神になり得るのだ。 …私もそうか。 くくっと喉を鳴らして笑ってしまった。
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