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06決意の果てに


跪いて、リオラは目の前の相手の言葉を待つ。
先にいるのはアルファトライオン。アイアコン議会の最高議員であり、彼女の祖父でもある金属生命体だ。
家族であれ、アルファトライオンは遠い存在だった。側で触れ合う事もなければ、助け合う事もない。他人のように振る舞うのが当たり前で、奇妙な壁が二人の間には存在していた。


「…変わりはないか、リオラよ。」
「はい。業務も滞りなく。次の議員選挙候補者のリストも既にこちらに仕上がっております。」
「そうか…」


データの転送を受け取りながら青い目を細めて、アルファトライオンはゆったりと呟く。現プライマスである彼が何を考え、何を思うのか。リオラには想像がつかなかった。
言葉がなくともネオフォックスとなら、意思の疎通が図れるのに。絆の薄さに頭では分かっていながら少し寂しさが込み上げた。


「…最近、公共の場でメガトロナスが己の思想を説いていると聞く。支持する者も増えているとか。」
「はい。」
「どうだ。お前の目から見て。あのグラディエーターはどう映っている?」


意見を求められたのは初めての事だったかもしれない。リオラは驚いて顔をあげる。公式の場ではないといえ、慎重に答えなくてはならない。
彼女は少しの間、沈黙すると言葉を選びながら話し始めた。


「メガトロナスの求心力は見事なものです。…ですが、彼はサイバトロンの安寧を望んではいない。高圧的な演説からは指導者としての心の欠落を感じます。」
「ではお前は誰をこの星に望む?」
「…」


彼女はその問いに言葉を失った。最初に浮かんだのは穏やかな幼馴染みの顔。しかし、彼がプライマスを継承したら、アルファトライオンのように他人行儀に接する事になり、もう本音で話をする事も出来なくなってしまうのだろう。
何より反対勢力からの圧力にも常に心を砕き、肉親ですら二の次だ。

(オライオン…)

彼にはそのままでいて欲しかった。
沈黙した彼女に、アルファトライオンが先に言葉をかけた。


「…構わぬ。無理に答える必要のない事だ。自と答えは出る。下がってよい。」
「はい。…失礼致します。」


床に付いていた膝をあげて、リオラは静かに立ち上がる。退室して彼女はため息をつく。久しぶりに会ったが、相変わらずアルファトライオンとは仕事の話だけだった。
家への帰り道、無邪気に駈けていく子供達を見る。後ろでは彼らの親であろう大人達が優しい視線を送っていた。ごく普通の、しかし羨ましい光景だった。
あんな風に、笑い転げながら道端で遊んだ記憶は彼女にはない。メモリーを辿る事はしないが、幼い頃に亡くした両親の顔すら、もう。


「リオラ」


名前を呼ばれて振り返る。穏やかな表情で近づいてくる青年が一人。オライオン、そう呟いたが声は掠れていた。泣き虫だった少年は立派な大人に成長した。今や弱虫は自分の方だ。
今、帰りかい?そう言いながら隣に並ぶ彼がとても眩しくて彼女はそっと目を伏せた。


「もうすぐプレゼンテーションの日なんだ。」
「…そう」
「…どうした?浮かない顔だね。」
「知っているでしょう、オライオン。私の家族の事を。私は本当は貴方に政治家になんてなって欲しくないもの。」


彼の誠実さと優しさはリーダーとして申し分ないものだったが、それはオライオン自身を消し去ってしまう。オライオンが議員になり、いずれサイバトロン星の司令官になれば…もうこうして街を共に歩く事もなくなるだろう。


「リオラ、僕は僕だ。君のお祖父様ではないよ。」
「…」
「彼だって君を思っていない筈はない。うまく伝えられないだけで…。でなければ目の届く場所に置いたりしないさ。」


オライオンの微笑みにスパークが騒ぐ。ああ、全くもって自分の自虐的な心に彼女は内心苦笑した。オライオンに惹かれてもどうにもならない。議員だけは好きにならないと昔から固く決めているのに。


「本気、なのね。オライオン…貴方は本気で。この星を、変えたいと。」
「冗談に聞こえていたかい?」
「…いいえ。そうじゃない。気を悪くさせたならごめんなさい。」


リオラは首を横に振ると、一呼吸置いて決意を固める。別れ際、手を挙げて彼女はとても綺麗に笑った。美しいが、触れれば壊れてしまいそうな程それは儚い笑顔だった。


"アルファトライオン公……私は、オライオン・パックスを全面的に推薦致します。"


彼女の決断を、オライオンは知らないまま。
二人の距離は縮まり、そして開いた。
―――――――――――
2014 01 03

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