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16時はうつろい行くとて


※normal endです。オプティマス落ち。


とても古い記録を視た。スリープモードに入る前、ジャックと人間が見る夢の話など聞いたからだろうか。懐かしくも、酷く悲しい。それはリオラが地球に来るずっと前の、サイバトロン星にいた頃の映像だった。
一人、休んでいた部屋を出てオメガワンの指令室へ向かう。深夜、誰もいないかもしれないと思いながらも足を運んだそこには静にモニターを操作するオプティマスの姿があった。
大きく逞しい背中。そこにかつての友の面影は微少だ。控えめに声をかけると、ゆっくりと半身が振り返る。
青い目は厳粛な光を灯し、彼女を視認すると少しだけ柔らかく細まった。


『…オプティマス、』
『どうした?何かあったのか?』
『ううん、そうじゃないんだけど…』


近くに腰を落ち着けると、リオラはオプティマスに謝ってから作業に戻るよう促した。
彼は怪訝な顔をしていたが、特に何を語る様子もない彼女を傍に黙って作業を再開する。
地球でオプティマスに再会出来た時は、嬉しくて涙が止まらなかった。サイバトロンで暮らしていた時のようにはいかないが、人間ともうまく共存の道を模索している。特に。最近、知り合った人間の子供達は可愛くて仕方ない。基地内を無邪気に走り回るのをラチェットがたしなめるのは恒例で、そんな日常に彼女は安らぎを感じていた。

ふと、情報局にいた頃を思い出す。こうして静寂に包まれオライオンと二人調べものをしていると少し大きめの足音が響いてきてやがて豪快な声が響くのだ。

(オライオン、リオラ!またこんな狭い場所で調べものか。)

…あの頃はこんなに長く、こんなに遠くの星に来てまで敵対する事になるなんて思いもしなかった。
メガトロン。どちらかが根絶やしになるまでこの戦いはずっと続くのだろう。覚悟はとうの昔にしているが、今夜は感傷的な気持ちで胸が痛んだ。
オプティマスは手を止めて、ゆっくりとリオラに歩み寄る。膝をおり、近づいてくる大きな手と顔に彼女は目を丸くした。


『少し外の空気を吸わないか?』
『え、ええ…。でも、いいの?』
『ああ。構わない。急ぎの用ではない。』


そっと肩を叩いて、オプティマスは立ち上がる。歩き出すオプティマスを彼女は追いかけた。昔と同じ距離で付いていく。あの頃のよう手を繋ぐ事はなかったが。
基地屋外へ続くハッチを開けて、二人は外へ出る。見晴らしの良い高台からは星空と、遠くに子供達の暮らすジャスパーの町の灯りがうっすらと見えた。
隣を見上げると、オプティマスの視線はいつの間にかこちらに向けられていて、リオラは少しだけ驚いた。彼は何も言わぬまま、そろそろと手を伸ばすと小さな彼女の手を優しく包む。オライオンよりも大きな、戦士の手。しかしその感触は懐かしく彼女ほっと微笑んだ。


『…漸く笑ったな。』
『?』
『さっきからずっと泣きそうな顔だった。珍しいな、君はあまりそんな所を見せはしないから。』
『ごめんなさい…』
『謝る事はない。それより話してくれた方が私は嬉しい。…覚えているかい?君から離れないでほしいと、昔、私が願った事を。』
『ええ…。忘れるはずないわ。とても嬉しかった。』
『…。あの頃、私はただ必死でプライムと呼べるものではなかった。今も、そう変わりはないのかもしれないが。』
『…貴方は昔から強くて優しい。そして自分の弱さも知っている。私はメガトロナスでなく、貴方がプライムで正しかったと思ってる。』


メガトロンが星を統治していれば全面戦争には至らず、サイバトロン星はまだ存続していたかもしれない。だが、行きすぎた独裁政治は必ず争いを誘発する。遅かれ早かれやはり避けられない衝突だったと思う。何より過ぎた結果はもう変わらない。前へ進むしかないのだ。


『人間でいう夢を見たの…。正確には多分、無意識にメモリを私が引っ張り出したんだけど。そうしたら急に寂しくて、…オライオンに会いたくなった。』
『…』
『もう1つずっと覚えてる事があるわ、オプティマス。私は貴方を、』


その言葉の途中でリオラは口を噤んだ。唇が触れる。オプティマスの顔が焦点があわぬ程近い位置に。触れるだけの長いキスは心地よく、穏やかな愛に満たされていて彼女は静かに目を閉じた。
オライオン…、後にそう呟いて目を開けると、オプティマスは困ったように微笑んでいて彼女は小さく苦笑した。

記憶はあっても、彼はもうオライオンその人には戻れない。
彼はオプティマス・プライムだから。


『…オライオンが、少しだけ羨ましい。』
『全部含めて貴方よ。私は貴方の傍にいる。司令官であっても、なくても。最後まで一緒にいるから。』

『……ありがとう、リオラ。』


そうして目を臥せたオプティマスは、確かにオライオンの貌をしていた。しかし、リオラはそれを告げぬまま、そっと彼の隣に身を寄せる。
地球から見上げる宇宙は、遠くまで星が煌めいて見える。サイバトロンにいた頃は、星自体が光を放っていたからここまで宇宙が美しく見える事はなかった。
かつてはサイバトロンの光も地球に届いていただろうか。次第に白ばむ東の空をオプティマスと二人で見つめる。いつかこの戦いが終わった後、還る日を夢見て。

(家族で、故郷に帰るんだ…)

地平線から昇ってくる太陽の光にリオラは未来への祈りを捧げた。

星の雫 了。
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2014 01 25

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