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12愛は雪が溶けて消えるように


カメラアイを瞬かせる。意識の戻ったリオラは軋む身体を推して咄嗟に上体を起こした。 肩口に走る痛みに顔を歪めると、腕を押さえる。取り付けられていたのは真新しいパーツ。…生きている。きっとここはどこかの軍施設の医務室だ。彼女は周りを見渡して直ぐ様通信回線を開いた。

(ネオフォックス…?ネオフォックス…どこ……)

問い掛けるが、応答はない。侵食する不安。彼女が立ち上がって部屋の戸口に向かおうとした矢先、先に外部からハッチが開いた。


『…!何をしている、まだ起き上がっては駄目だ!』
『、離して。私、私…、人を探さないと…』

『それは、誰の事だろうか。』


落ち着いた、低い声だった。リオラが顔を上げると、そこにはオライオンの姿が。しかし、かつての彼よりオライオンは数段大きく、これまでより強いプレッシャーを放っていた。
柔らかな光の消えた青い瞳。その僅かな変化で彼女は解ってしまった。ネオフォックスはもう、いない。片時も離れなかった半身は先に逝ってしまったのだ。
涙を堪えて、再び彼女は大人しくベッドに横になった。

人払いをして、オライオンはリオラの前に膝をつく。間近でみる彼の目はやはりこれまでとは違う深い色をしていて、彼女は戸惑いながら見つめ返した。


『……助けに行くのが遅くなってすまない。君も大怪我を。…痛かったろう。』
『こんなの大した事ない…。また治るもの。それより…教えて、オライオン。貴方が…彼を看取ったの?』
『…』


懇願するリオラにオライオンはそっと目を伏せた。指先が彼女の頭に触れる。流れ込んでくる映像はネオフォックスの最期の姿。寝台に横たわる彼は穏やかで、話す口調はいつも通り静かなものだった。もう目覚めないのが嘘だと思うほどに。


『リオラ、私はネオフォックスの助言を得てマトリクスをこの身に受けた。』
『え…』
『…君も知らなかったのだな。プライムの叡知を受ける資格…彼もそれを持ち合わせていたのだ。しかし彼は星よりも君を選んだ。犠牲ではなく、彼が望んで君の傍で生きたのだ。』


リオラは言葉が見つからなかった。確かに彼の過去は何も知らなかった。知らずともネオフォックスが側にいた時間は長く、次第に心赦せる人物になって、共にいる時間が全てだった。
過去は大した比重ではなかった。過去に囚われるのは彼女自身、ずっと避けてきた道だったからだ。


『彼はきっと君を誰よりも愛していた。』


涙が溢れた。子供のように声を上げて泣きたかったが、実際は言葉にならなかった。彼は自分より遥かに強い人だったから、先に逝ってしまうなんて考えた事もなくて。呆然としたまま、リオラはオライオンの前で激情を殺した。
悲しい。スパークが、壊れてしまいそうに痛い。オライオン、そう、彼を呼ぼうとした時。


『オプティマス・プライム司令官、立ち止まっている時間はない。こうしている間もメガトロンは待ってはくれない。戦火は、刻一刻と拡大している。』
『…』
『オプティ、マス…?』
『リオラ殿、彼は既にオライオン・パックスではない。オライオン・パックスはマトリクスを得てオプティマス・プライムとなったのだ。サイバトロン星の叡知を継ぐ、この星で最高のプライムに。』


入ってきたオートボット軍の隊長は急かすようオライオンに声をかけた。リオラの瞳が震える。自分が眠っている間に、オライオンは更に背負うものを増やしていたのだ。
心配そうに見つめてくる彼の目に、彼女は恥ずかしくなった。彼は一人でオートボット全ての命をその身に託されている。その重みを、更に自分が増やしてはならない。
彼女はそっと腕を押し返して、彼を見上げて微笑んだ。


『ごめんなさい……オプティマス。私、一人に時間を取らせて。私は大丈夫です。』
『リオラ、』
『もう行って下さい。オライオンには側に居て欲しいけれど、オプティマスにはやるべき事がある。何を差し置いても。解っています…祖父もそうだったから。』


聞き分けるのは慣れている。唯一、我儘を言えたのは昔からネオフォックスにだけだった。甘えは、もう捨てなければ。彼女はオプティマスの眼を真っ直ぐに見つめた。


『…貴方を支えられるよう、早く傷を治します。だから、心配しないで。貴方がここを訪れなくても、治療が終われば復帰しますから。』
『リオラ…、以前、私が言った事を覚えているかい?私はアルファトライオンではない。君を置いて行く気はないよ。』
『…私はお荷物になりたくない…』
『重荷などではない。君は何より大切な仲間であり友だ。だから、どうか君の方から離れないでくれ。私は、プライムとなっても側にいるから。』


オプティマスは、そっと彼女の頭を撫でて出て行った。また来る、そう残した言葉に嘘はないだろう。しかし、解っている。今までのように一緒にはいられない。メモリーを辿る。今だけは昔の温もりにすがりたくてネオフォックスの姿を追い掛けた。
彼は誰の血を継いだ者だったのだろう。本当に後悔のない人生だったのだろうか。もっと話をすればよかった。知っているのは静かに佇み、見守る姿。彼の本心を知る者は、恐らく誰もいなかったのではないか。


『ありがとう、くらい……言わせて欲しかったよ…』


貴方が居てくれた事。
貴方自身を、本当に大切に思っていたのに。
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2014 01 17

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