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10非日常からは逃げられません


薄く埃の溜まっていた自室を掃除した。
ベッドに倒れ込むと、その柔らかさにルナは小さな感動を覚える。
カレンダーを見れば、月は約半年前。帰って来られた事がまだ信じられないが、彼女は確かに安堵していた。


「……帰って、きたんだ。」


実感はあまりない。だが、体は正直で襲ってくる睡魔のまま目を閉じれば意識はすぐに沈んでいった。
表向きは幸せな日々が戻ってきた。
ロックダウンは強引なものの、比較的自由を与えてくれたので昼間はサムダックタワーの勤務に戻る事が出来た。
いつしか笑う事を忘れていたが、オートボットやサリ達といると自然とまた笑みがこぼれるようになった。また、と夢に見た地球での日々。

(だけ、ど…)

何故か、胸を奇妙な喪失感が刺す。完全にではないが戻ってきた穏やかな日常に何かが足りない。確実に。


『浮かない顔じゃねェか、お嬢さん。』


ロックダウンの船で機械を弄っている時、彼の口からそんな言葉がこぼれた。
意味を汲み取れず首を傾げると、ロックダウンは意味深に肩を竦め、自らの武器の手入れに戻ってしまう。気になったがルナはそれ以上追及する事は出来ず再び与えられた作業に戻った。
彼との夜半の活動にも慣れてきた。お互いの作業中、殆ど会話はない。しかし口数は多くないが、ロックダウンはそれ程酷い男ではなかった。命を握られてはいるが手荒に扱われる事はなかったし、スィンドルの艇にいた頃とする事はあまり変わらなかった。

(ルナ、休憩しましょうか)

ふと、その声を思い出す。彼は今、どうしているだろう。
船を修繕してもしかしたら既に地球を出たかもしれない。
金と武器、そして好奇心が彼の心だ。

暫くして不意に、大きな手のひらに掬われる。驚いて顔を上げると、ロックダウンは赤い目を細め指で彼女をつついた。


「な、なに……」
『ルナ、俺はオマエを気に入ってる。俺なりに優しく扱ってやってるつもりだぜ。』
「…わかって、ます」
『分かってるなら集中しろ。今日は手が止まり過ぎだ。』


その言葉に心臓がひやりとした。自分の求めるもの…足りないものが分かった気がして。

――夜道を歩く。
車を降りて、マンションへと足を進める。
足音がやけに響いて、少しだけ怖いと感じた。
このままエントランスへ入れば、取り戻した今までの日常が。でも。けれど。


『…漸くまた会えましたよねぇ、』


自分を照らすヘッドライトにぞくりとしたのは恐怖か否か。ルナはその場に静止した。

心の底では解っていた。私は既に彼に毒されている。歪な非日常を知ってしまった私はもう以前の平凡な生活では満たされないのだと。
―――――――――
2012 10 19

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