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06乙女座の憂鬱


重傷でないにも関わらず安静にしていなければならないというのは兎に角退屈なものだ。
与えられた一週間の療養期間。自室のベッドでうとうとしながら、ヒスイは過去のデータ資料を捲っていた。
ヒスイの怪我は周囲には過労による階段からの転落事故としてレノックスに伝えてもらった。
事実を知っているのはラチェットとレノックス、そして当事者二人のみ。
オプティマスにもこの件に関しては一切報告しなかった。


「ラチェットは既に知ってますが、他のオートボット…特に司令官には伏せておいて下さい。きっと気に病むだろうし、こんな事で協力協定のマイナスにはなりたくないんです。」


病室でレノックスにだけ事実を話し、彼女はそう願い出た。常日頃、飄々とした彼女の上官はその提案に少し驚いた表情を浮かべた後、どこか含みのある苦笑を浮かべヒスイの頭を軽く撫でた。


「…お前はいつも要らない気ばかりまわるな。」


レノックスが言った言葉の真意は掴みきれなかったが、彼の言いたい事は大凡分かった。
パタン、本を閉じるとふと昔の思い出が頭を掠めて口元が緩む。けれどそれは決して、楽しいものばかりではなく……


『あっ…いたいた!オイ、人間!』


部屋に飛び込んできた小さな金属生命体によって、思考は一旦中断された。


「いらっしゃい、ホイーリー。今日も来てくれたんですね。」


小さな機械音と共にベッドによじ登ってくる赤い眼の金属生命体。
かつてはディセプティコンだった彼だがエジプトで鞍替えした事により今ではすっかりオートボットの一員となっていた。
最近の日課は、部屋からまだあまり出られないヒスイの元にオートボットからの見舞いの品を届ける事だ。


『アイツラ毎日毎日俺をコキ使いヤガッテ!ホラ、お前にダ!』


掛け布団の上に上がってきたホイーリーは持ってきた金属の欠片を広げて見せる。
怪我をした、そう聞いているらしいオートボット達は小さな機械の部品を毎日ヒスイの所へ送ってくる。
治療には使えないがその気持ちが嬉しくて、彼女はホイーリーが来る度満面の笑みで彼を迎えた。


「…ホイーリー、皆変わりない?出動命令は出てない?」
『アア、だがパトロールに何人かで遠くに行くらしいぜ。暫くはまた帰ってこないんじゃねェ?』


スプリングの上で転がりながら、ホイーリーは気のない様子でそう答える。
彼女はその言葉を聞いた瞬間、真っ先に赤いフェラーリが頭に浮かんだ。

――嗚呼…、彼はきっと行ってしまう。
また闘いの日々に還っていく。

フラッシュバックのようによぎった、敵を見て嗤うディーノの貌が彼女の心に影を落とす。

(………行って欲しくない、なんて)

言える訳もない、そんな気持ちがヒスイの中で複雑に渦巻く。不安。心配。そんなの戦士である彼に失礼だし必要ない言葉だ。

しかしあの夜、掌に掬い上げられた堪らなく優しい感触が忘れられなくて……、彼女はまるで初恋をした少女ようにディーノの事が頭から離れなくなっていた。
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2011 10 02

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