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07親友ドライブ


戸締まりをして、街に出かける。久しぶりの非番でスカートを履いてみたら何だか気恥ずかしくて少し笑えた。穏やかな陽射しの降り注ぐ中、ヒスイは一人、目的の場所へ向かう為足を進める。ディーノは今日は早朝からパトロールに国外へ出ている。前々から外出は予定していたが敢えて告げず彼女はディーノを普段通り見送った。


『Hi,Lady.車が要るんじゃないか?』


故に息をのんで振り返る。明るい太陽光に煌めくシルバーのボディ。反射に少しの間目を細める。朧気な既視感。一瞬、白昼夢を見ている気分に陥るが、彼女は努めて落ち着いた声で言葉を返した。声も、姿も違う。…光の悪い悪戯だ。


「…歩いて行ける距離よ、サイドスワイプ。」
『じゃあ車があってもいいわけだ?』
「…まあ、そう言われると、ね。」


笑うと、助手席のドアが開けられる。断る理由も特に見当たらず、彼女は素直にその気遣いに甘える事にした。思えば彼と二人で出掛けるのは久しぶりの事だ。つい数年前、彼が地球に来た時はよく基地を抜け出したものだが。


「…もしかしてディーノさんから連絡があった?」
『ま、それもある。』
「…。金属生命体のメモリには困ったものね。記録って消えないんだもの。…あ、その一ブロック先、左にお願い。」


ラジャ。軽やかな運転にヒスイはシートにゆったり身を預ける。向かった先は小さなの花屋。相変わらず、月に一度、花を手向ける日々は続いている。だが、ディーノには極力、分からないようしているつもりだった。以前、彼がこういった事に真っ向から否定的だったからだ。
白百合を買って、青い海辺へ足を降ろす。明るい内に来るのは久しぶりで、白く光る水面は生命力に溢れていた。澄んだ青はオートボットの瞳と同じだ。


『ディーノは口には出さないだろうが、多分、自分が連れて来たいと思ってるぜ?』
「…そうかしら?でも、それで暫く前、喧嘩したのよ。」
『不器用だけど、アイツはお前の力になりたいと思ってる。ただ、ヒスイから頼ってやらないと変に頑固なところもあるからな。』


好きあってるのに面倒くせェな。開けっ広げに言うサイドスワイプに、ヒスイは困ったように笑う。ディーノの事は好きだ。そしてディーノも好意を持って接してくれているのは自覚している。しかし、先に記憶のみの存在になってしまうのは恐らく人間である自分の方だ。こうして遺して行くのが分かりきっているのに、これ以上の距離を埋める事は果たして互いに良いものか。彼を悲しませたくはない。好き、だからこそ。


「サイドスワイプ…いつか。いつかね、私が」
『おっと、ストップ。』


彼女の開きかけた唇に、大きな指が触れる。見上げると、サイドスワイプは眉を下げて笑みを浮かべたまま首を横に振った。


『お前はさ、頭がいいから色んな事が先読み出来ちまうんだろうけど、今をもっと楽しめよ。俺達は今。一緒に生きてるんだぜ?』
「……うん、。そう、だね…。」


海に飲まれて消えて行く白い花弁を見つめて、ヒスイは静かに目を閉じる。任務から帰ってきたら次は一緒に来てもらえるか話してみよう。彼がそれを望んでくれるなら、とても嬉しい事だ。共にいる時間を、共にいた時間を大切に感じてくれるなら。


『あ、後もう一つある。これはすげェ今更な事だけど。』
「?」


帰路をひた走りワシントン市内に入ると、時間はもう深夜だった。ディーノが格納庫に戻ってくると、既に非常灯に切り替わり辺りは静まりかえっている。薄暗い中、僅かに光るパッシング。見ればサイドスワイプで近寄れば彼は助手席の扉をゆっくり開けた。
ぐっすり眠っている、ヒスイの姿。ディーノが目を丸くすると、サイドスワイプはそれを見て思わず吹き出した。そんな貌も出来たのだと。彼女を掴んで引っ張り出す友人の姿が何とも微笑ましかった。ディーノは気にせず、少し乱れたスカートの裾を引っ張って腿を隠す。


『今日はお前が戻るまでここで待つって言うからさ。エスコートはお望み通りにしておいたぜ?』
『ボディまで洗わせろとは言ってないがな。』


銀色のすべらかな光沢を見て、ディーノは不満そうに排気を漏らす。と、揺れた震動でヒスイが小さく呻きながら目覚めた。
彼の掌で目を擦りながら彼女はゆっくり上体を起こす。ディーノだ。帰ってきたのだ。ヒスイは微笑むと、僅かに躊躇ったが口を開いた。


「お、お帰りなさい……、あの、…ディーノ。」
『…』


本日、二度目の硬直。游ぐヒスイの瞳に傍に居たサイドスワイプを睨んだが彼は既にスリープモードに切り替えていた。
ヒスイが不安そうに黙りこんだのを見て、ディーノは自らの顔の前まで持ち上げる。
彼女一人なら、もっと素直に喜べたのに。彼女が自分から名を呼ぼうとしたのなら、もっと。もっと。


『Bella,お前からキスしろ。今日はそれで良しとしてやる。』

欲しがれ、もっと、永久の愛を。
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2013 06 08

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