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36The Over-終わりの先に-


オートボット格納庫内を歩く。真夜中になり、人影は無い。壁に寄り掛かるオプティマスの前にディーノは立つ。
眠るように閉じられていた瞳がゆっくりと開かれる。見上げた先でかち合う、静かな青星の色。
ディーノはそれを見つめながら口を開いた。


『司令官は傷が癒えてもこの星に留まるのか。』


オプティマスは端的に言葉を発したディーノを具に観察する。
以前の彼ならきっと自分に問う事すらしなかった筈だ。彼にとっては当初戦う為だけにきた只の惑星。それが今は。伺える迷い。その理由も想像がついて、オプティマスは若き仲間に小さく排気を漏らした。


『ディーノ、私はここも故郷だと思っている。種族は異なるが人間達は勇敢で慈悲深い。メガトロンが消えた今、我々は更に友好的に暮らしていけるだろう。』
『…だが、宇宙にまだ敵は居る。メガトロンが死んでもディセプティコンが全宇宙から消え去ったわけじゃない。』


くすぶる殺意。最後の一人まで敵を根絶やしにする、そうやって今まで生きてきた。
それが正しく、それが日常だった。答えが欲しかった。明確な道があればそれを突き進めばいい。
だが、…よく分からなくなった。いつからか、憎しみが薄れていくような。穏やかな気持ちで世界を見つめる時間が少しずつ増えて、

――ディーノさん。

気が付けば傍で彼女の声が。気配が。

――ディーノさん。

煩しさから、いつしか耳に馴染み"特別"に変わっていった。人間は今でも好きではない。だが、レノックス達のような一緒に居る仲間は別だった。
地球も悪くない。そう思える程にはディーノは情を抱いて接してきた。
だからこそ、許せない。オートボットや仲間の命を奪ったディセプティコンが彼はどうしても許せなかった。


『ディーノ、』


オプティマスは優しく囁く。目を伏せ、彼の眼差しは遠くかの星を思う。ディーノの知らない平和だった頃のサイバトロン。闘いの時代しかしらない若者に心が痛んだ。安らぐ気持ちは感じているのに、受け入れる術を彼は知らないのだ。


『ディーノ、憎しみを捨てるのも勇敢な事だ。…愛する者のために、キミ自身が後悔しない道を考えろ。』


幸せになってもいいのだ。

精一杯の思いを込めて、彼に告げる。ディーノはそれに口を開かなかったが、思案するよう目を瞬かせるとオプティマスに背を向けた。遠ざかる背中。彼の暗い夜が明ける事をオプティマスは切に祈ってスリープモードに切り変えた。

静かな朝だった。太陽の光がいつもより白く暖かな気がする。ヒスイは目をこすりながら医務室の端のベッドで上体を起こした。
カーテンに手を伸ばして風を入れると、ふわりと花の香りが鼻腔を擽る。備えられた花瓶に添えられたのはサイドスワイプが持ってきてくれたものだ。人間の文化に合わせた友の気遣いがとても嬉しかった。日本の春のような温もりに彼女は睫をそっと伏せる。

エンジンの音が聞こえてくる。視界に飛び込んできた赤。
建物の傍まで来て、ディーノはビークルから変形した。幾分、落ちついた気持ちでヒスイは彼を見つめる事が出来た。彼が旅立つにしても、この星に残るにしても…好きだと思う気持ちは変わらない。


「おはよう、ディーノさん」


だから夢かと思った。笑いかけると、彼が見た事もない柔らかい表情で笑みを返した事が。狼狽えている内に彼は膝をおり、顔を近づけてヒスイを掬う。


『俺にはお前が必要だ。…地球に残る。』


自然と笑顔と涙が溢れた。頷いて、彼の指先を抱き締める。元々、少し不器用なだけで優しい彼だ。ゆっくりでいい。一緒にこれから人間の世界に馴染んでいけたら。傍で支え合えたなら、

復興への道のりは長い。明るい未来まではまだ果てしなく…もしかしたら自分が生きている内には終わらないかもしれない。しかし世界の再建の為に、彼と共に歩んで行けるなら、それはこれ以上ない暖かな希望だった。

新しい一歩を、キミと今ここから。
―――――――――
2013 03 26

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