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24白昼夢


自らの保管庫から銃を抜く。マグナムの手首に来る重さは、冷ややかで気持ちの良いものではない。ヒスイは唇を結んで両足のホルダーにそれを仕舞う。
窓から夜明けを見つめていると、部屋の静けさを破って回線が音を立てた。

"はい"
"ヒスイ、今基地のすぐ傍だ。"
"分かった。すぐに。"

通話は手短に。夜に紛れて半壊したワシントン基地を出る。落ち合う場所に走ると懐かしい顔が佇んでおりヒスイは勢いのままその腕の中に飛び込んだ。


「エップス軍曹!」
「久しぶりだな、生きてて良かったぜ。」
「お互いに。連絡をくれてありがとう!」


ザンティウムへ移動して以来、彼とは会っていなかった。
形は違えど彼もまた二年前のメガトロンとの戦いで心に傷を負った一人であり前線から退いていた。変わらない姿に安堵する。
挨拶もそこそこ車の後部座席に乗り込むと、NEST関係者以外に見知った民間人の顔が一つあった。


「…サム・ウィトウィッキー?」


思わず声を上げれば、青年がゆっくり顔を上げる。エップスが運転席に乗り込むと後ろを見て口を開いた。


「サムはガールフレンドをヤツラに攫われた。一緒にシカゴへ連れて行く。」
「…そう。でもエップス…けれど彼は民間人で…」
「軍は彼女一人を探す事は出来ない。放っておいたってサムはシカゴへ向かおうとするんだ。なら一緒に連れて行く。」


ラジオの音声を調整しながら、エップスはエンジンをかける。レーザービークの言葉通りシカゴの街は大規模な空襲を受け壊滅的であるらしいが大した映像も手に入らず、未だ手を拱いている状態だった。

黒から灰色に変わる空は雲と薄い光とで、粉塵なのか天候の為なのか判別は難しい。

(…皆、皆死んでしまった。)

銃を抜く理由を考える。世界を守る為、なんて大儀は自分には無い。しかし自分の周りにある世界は守りたかった。
オートボット達が死んでしまっても、家族や友人や仲間が居る。嘆き悲しんでいるだけで、何もしないわけにはいかなかった。心はボロボロでも、それでも進しかない。敵に踊らされていると分かっていても、行くしかなかった。

目的地へ近づくにつれ瓦礫と避難民が増えて行く。目を覆いたくなるような惨状が当然の様そこかしこに広がる。夜が明け青くなる彼方の上空に不気味な形状の戦艦と高層ビルから立ち上る黒煙がいくつか見え始めた。
彼女は刹那、走馬灯のような白昼夢を見た。日常だった光景、視界には機体の赤があり穏やかに佇んでいた。
友好的ではなかったし、手を取り合うような事もなかった。けれど確かに変わり始めていた彼を、好ましく思って見つめていた。

(ディーノ…)

目を開ける。ざわり、胸がざわついて窓の外を見上げると軍の小型機がシカゴ市内へ向かっているところだった。
恐らく無人の偵察機だろう。そう思った矢先、敵の戦闘機が即座にそれを打ち落としにビルの影から飛び出てきた。

撃墜された軍用機は近くの建物に落ち、降り注ぐ破片を避けようとエップスは慌ててブレーキをかける。車を降りて、ヒスイはまず撃ち落とされた機に駆け寄った。
ジェット部分が大破しており、修復は不可能な状態。よくよく見渡たせばよく似た残骸が散らばっており敵の包囲網の固さを改めて感じずにはいられなかった。街への介入すら厳しいか。
そう感じた矢先―――。


「サム!サム、止まれ!」


エップスの怒涛に彼女ははっと振り返る。単身乗り込もうとするサムをエップスが掴みかかる勢いで止めていた。


「今行けば死にに行くようなもんだ!死ぬ為に此処まできたのか?それでいいのか!?」
「離せ!僕は一人でも助けに行く!僕が彼女を巻き込んだんだ!」


彼が振り切って走り出そうとした瞬間、敵機が間近まで降りてくる。無慈悲に放たれる熱弾に、民間人が数人あっけなく文字通り"蒸発"した。
全身から冷や汗が吹き出る。銃を取り出し構えるが、風圧とスピードが速すぎて狙いが定まらない。

殺される…死ぬ、ここで。
どうにか応戦しようとするが気持ちに身体がついてこなかった。

目と鼻の先までマシンが迫る。エップスの悲鳴のような叫びと、マシンガンの音が響いたのはほぼ同時だった。


『ヒスイ!!』


――空耳が聞こえた。向けられた巨大な銃口に死んだと思ったがどういう訳かまだ撃たれては…いない。爆音と恐怖でおかしくなってしまったのかもしれない。視界の中では敵の戦闘機が吹っ飛び、彼女の身体は不安定に揺れていた。

顔をなかなか上げられない。自らを掬い上げる見覚えのある巨大な掌に、心がただ打ち震えた。


「ディ…、ッ」


声が詰まる。アクアブルーの光に映る自分を見て、ヒスイはやはり命の向こう側にいるのかもしれないと思った。
―――――――――
2012 11 26

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