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17裏切りに沈む灯


選択を誤った。ディーノは率直にそう思った。
基地内に居た方が安全だろうと、置いて行った。ひ弱な人間。だが"彼女"は確かに他より大切な人間で、守ってやりたいとディーノは思っていた。
サイドミラーで自らを見送る顔を見たのが最後。そのまま変わらないヒスイに当たり前のように会えると思っていたのに…前線から戻ってみればアイアンハイドは最早原型を留めておらず、ヒスイは散らばる金属の海の中で微弱な呼吸をしつつも地に臥して動かなかった。
めちゃくちゃに破壊された格納庫を人間達が走り回り負傷した者を運んでいる。
彼女に気づいた人間が駆け寄ってきたがディーノはその歩みを妨げるようヒスイの周りを手で囲んだ。


『……近寄るな。女一人守れねェくせに、気安く近づくんじゃねェ。』


怒りに満ちた声に、医療班の足が竦む。憤りは彼らに向けられたものではない。だが収まらない。ディーノも分かっている。
センチネルの突然の裏切り。守るべき戦士の裏切りに恐らく為す術もなかったのだろう。
故に、腹がたった。逃げなかったヒスイに。腕に大事そうに抱えた無傷のスパークを見れば彼女がアイアンハイドの傍を離れなかった事が想像出来る。
自分たちよりずっと脆い癖に。簡単に死んでしまうのに。
センチネルに。ヒスイに。そして、自らに。
彼女を見つめたままディーノは消化しきれない負の感情を持て余した。


『…ディーノ、我々では彼女の治療は出来ない。彼らに任せるのだ。』


オプティマスの言葉にもディーノは暫く動かなかったが、やがてゆっくり彼女の上から手を退けた。
彼が数歩下がった事で、怯みながらも医療班がヒスイの元へ駆け寄り身体の状態を調べ始める。スキャンした所、奇跡的に骨は折れていない。…死ぬ事はない、恐らく。しかし、打撲のダメージがどこまで彼女の肉体を蝕んでいるかは解らなかった。


「…ぅ、」
「ヒスイ!?ヒスイ隊員、聞こえるか!?」


仲間の呼びかけにうっすらと呻く。
ディーノはそれをじっと無言で見つめていた。


「……スパー…ク、スパークを、お願、い…」


どこまでも他人を優とする愚かさに、嫌気がさす。
ようやく聞けたと思った声はアイアンハイドに対するもので、スパークを近くの隊員に渡すと再び彼女はまどろみの底に落ちていった。
愚かしい。スパークだけ残っても、彼が息を返す可能性は殆ど無い。運ばれて行く彼女にディーノは只、立ち尽くしていた。


『……八つ裂きにしてやる。プライムがオートボットを裏切るなんて俺は絶対認めねェ。』


青い眼の中で、揺れる小さな紅い石。
師の死を未だ受け入れられず放心しているサイドスワイプを振り返ると、ディーノは腕のブレードを彼に翳した。


『敵を殺しに行くぞ、サイドスワイプ。』


赤い咆哮を轟かせて、フェラーリはコルベットと共に街へ飛び出して行く。
オプティマスが制止の声を掛けるが、止まるはずもなく彼らも追随する形となった。
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2012 05 04

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