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11尊厳


月に在った墜落艇から回収に成功したかつての統率者センチネル・プライム。
オプティマスのマトリクスによってスリープモードから解き放たれた彼は、非常に鋭い瞳で人間の前に立った。
これまでオプティマスが穏健で当前のように対等な対応だったせいか、彼、センチネルの高圧的な言動は棘があり、ヒスイは黙って長官達とのやり取りを見つめていた。
既に保管庫に厳重に隔離された彼の所有物、スペースブリッジの処遇について、センチネルとメアリングは互いに譲らず噛み付きあう。


『スペースブリッジ…柱はどこへやった?あれは我らの技術だ。返してもらおう!』
「地球人がOKと言えばね。テレポーテーションで好き勝手に大量破壊兵器を持ち込まれたんじゃかなわない。」


メアリング長官の怯まない態度には内心、彼女はひやひやする。
オプティマスが側に居る為、比較的安心はしているがセンチネルの放つ怒りの感情はあてられるとそれだけで心拍数が上がった。
ヒスイがちらりとディーノに視線を逸らすと、彼は無表情にリーダー達の話に腕組みし壁に背を預けている。

スペースブリッジ―――所謂、超時空移動装置の存在に関して彼はどう思っているのか。
ディーノは戦う事に関しては異常な執着を見せるが、交渉や決め事の際は大抵メモリに留める程度でいつも発言する事は殆どなかった。


「ヒスイ、」


不意に名を呼ばれて、彼女はハッと顔を上げる。
メアリングの視線を見つめ返すと、彼女は普段と変わらない淡々とした口調で命を下した。


「柱の保管庫の強度とセキュリティを見直しておきなさい。今すぐによ。もう下がっていい。」
「了解致しました。」


一礼してヒスイはくるりと踵を返す。
センチネルの冷めた視線が、体を刺すように突き刺さったが気にしない振りをしてヒスイは通り過ぎようとした。


『スペースブリッジの存在は絶対に敵に知られてはならん。貴様にそれが出来るのか?』
「…尽力致します、Mr.センチネル。オートボットと人間が共に平和に暮らせるように。だから貴方も私共にご協力をしていただけないでしょうか。」


恭しく頭を垂れて、ヒスイは彼の青い目を真っ直ぐに見つめる。やがて短い息をついてセンチネルは無言のまま視線を外すとそのまま格納庫を出て行ってしまい、その背中を、オプティマスが追いかけた。
吐き出す息は震え、冷たい。怖かった。彼女が小さく深呼吸すると、近づいてきたディーノが目を細めて自分をじっと見据えていた。


『…嫌いじゃないぜ、俺はお前のそういう所。』


放たれたのは彼からはめったに聞けない柔らかな台詞。
彼女が目を丸くすると、ディーノは指に艶やかな髪をゆるく絡めた。


「――信用に足る人物なら、私個人は…センチネルさんに彼に私物を返したいと思っています。」
『頑固そうなジジィだからどう転ぶかわからねェな。見極めてみろよ、これから。クソババァよりはお前の方がうまく話が出来そうだ。』
「、ディーノさん!」


暴言を思わず咎めるが、彼に悪びれた様子はなく、ディーノは小さく肩を竦める。そして彼女をやわく摘んで、コンピュータールームの前へ置くと、フェラーリへと変形した。
そのままサイドスワイプと区画を離れていく彼にヒスイは僅かに苦笑混じりのため息を漏らすと、そのまま仕事に取りかかる。
信頼している――言葉には出さないが、そう言われたようで温かな安堵が胸を満たした。

センチネルプライム、彼ともいずれ分かりあえたら。
この時は前向きな思いを抱きつつ、彼女は何も知らぬまま果ての和解を信じていた。
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2012 02 26

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