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03子守唄


「誰がこまどり殺したの?わたしとスズメが言いました。」


マザーグースの有名な一節。古びた童話を手に取って読み上げながら、ヒスイはベッドの上で欠伸をした。
柔らかい布団の膨らみの上で羽根を休めるのは彼女と、丸くなったレーザービーク。時折彼女の元に訪れるようになった彼は長い尻尾を揺らしながら、今にも眠ってしまいそうなヒスイをつついて話の続きを促した。


『ヒスイ、続きハ。もっと、聞きタイ。』
「ん…」


眠気に小さく呻くものの、彼女はそれに応えてやる。レーザービークはうとうとしながらも要求を飲む彼女をその赤い目でじっと見つめた。
時折、紡ぐ言葉の合間で視線が遠く暗い窓の外へゆく。離れた地のオートボットを想っているのか。不安げに澄んだその瞳の輝きは揺れていた。


「誰がこまどり看取ったの?わたしとハエが言いました。小さな目でしっかりと、わたしがこまど、り…看取っ………」


――ナァ、知ってるか?
お前の大事なオートボットは、これから起こる事で暫くここには戻ってこない。

もし、俺が今、お前を切り裂いても誰も助けに来ないんだ。

ヒスイの手から落ちた本を器用に拾い上げて、レーザービークはほくそ笑む。
眠った彼女の上に乗って、彼はぺろりと頬を舐めた。薄い肌の下を流れる血液の感触。…少しだけ裂いて、赤い液体を出してみようか。細い首筋を甘噛み。痛みにくぐもった声が漏れ、それは彼をやけに興奮させた。

"レーザービーク。オンナを殺すにはまだ早いぞ"
"……ハ、失礼致しました"

力を込める直前に通信でストップが掛けられる。カメラアイを通して映像を受信している主の声。忠実な部下である彼はサウンドウェーブのその言葉に尖った歯をゆっくりと肌から離した。
赤く鬱血するに留まった傷。レーザービークは名残惜しそうに一舐めすると、彼女の横で丸くなった。

『誰が喪主をつとめるの?
"わたし"とハトが言いました
愛をもって嘆き悲しむ
わたしが喪主をつとめましょう
空を行く鳥たちは
ため息ついて すすり泣く
鐘の音よ 響き渡れ
哀れなコマドリのために』

彼女の耳元で、彼は酷く愉快そうにその詩を歌う。
下等生物が考えたわりに、その行(くだり)は素晴らしく悲観と絶望に満ちて、彼はやけに気にいってしまった。

『…さァ、オレもそろそろ仕事に行くか。』

長い首を気だるそうにもたげて、レーザービークは翼を広げる。
主人から送られてきた次の命は、チェルノブイリ資源省のヴォスコットの監視、誘導。そして暗殺。
使えるでもなく、使えなくもない至って平凡な男で酷く退屈な仕事に思えた。

"ショックウェーブとドリラーは既に潜伏している。急げ。"
"お任せを。マスター。"

銀翼を震わせてレーザービークは窓から飛び出す。
寝息をたてるヒスイを見ながら硝子戸を閉めて、彼に取っては異質な空間を後にした。

"……ご主人様、
ヒスイを殺す時はどうか私にご命令を"

この暖かで平和な生き物を壊すのは是非自分でありたいと、レーザービークは冷たい空を疾走しながら一人笑った。
キミの美しい死に顔を一番に見られるなら、その時はオレが喜んで喪主を務めるから。
―――――――――
2012 01 03

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