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BlackDress


※not固定ヒロイン。cp9主。
ほんのり微裏。


電伝虫が静かに鳴る。
彼女はそれを一度見やったが、受話器を取り上げる事はしなかった。

先程、エニエス・ロビーに彼らが帰還したとの連絡は既に給仕の少女から聞いた。興奮気味にやや頬を染めてその様子を話す少女はとても微笑ましく、同時に少し疎ましかった。
少女はここで行われている真実など露ほども知らない。
ただ、正義を掲げる世界政府の諜報員という存在に純粋な憧れを抱いているだけ。
その無知が羨ましく思えたのかもしれない。

唇に軽くのせる赤いルージュ。
緩やかに髪と衣服を整えてヒスイは与えられた広い部屋の片隅に腰を降ろす。飾りけのない室内のドレッサーの鏡に映るのは黒いパンツスーツに身を包む自らの姿。

もうすぐ召集の時間―――五年ぶりの再開だ。


「部屋にいる癖に何故出ない。」


……約一名のフライングを除いて。
ゆっくり扉の方へ顔を向けると、歩いてくる懐かしい姿。別れた時より髪が伸びて、鋭さが更に増したその顔をヒスイは無表情のままじっと見つめた。


「お帰りなさい。」
「遅い。」


髪が引かれた時にはもう唇は重なっていた。
耳につく白い羽音。
呆気なくまるで人形のように椅子ごと毛の長い絨毯の上に転がされて彼女はルッチをただ見上げる。
首元のタイが解かれるのを感じて、今日は特別綺麗に結べたのにと少しだけ残念に思った。


「…今からする気?」
「文句でもあるのか。」
「なければ黙ってるわ。」

「なら黙れ。」


有無を言わせず押さえつけ、衣服を剥いでいくルッチの向こう側に遠い空が映り込む。

夜のない、常に明るく高い天上。
カーテンの隙間から見えたその空はあまりに澄んでいて、ヒスイはその蒼穹から逃げるように瞳を閉じた。


「…ルッチ、愛のないセックスも犯罪よ。」
「違うさ、お前は俺を愛してる。勿論、俺もな。」


顔を見なくてもルッチが歪んだ笑みを浮かべているのが気配で分かる。握る拳。ヒスイはそれ以上何も言わず、理性を壊していく熱と吐息に身を委ねた。

やめてと、嫌だと、拒絶出来ない自分が嫌い。
例え、拒んでも逃げ場なんて何処にもありはしないから―――結局、私は自分の居場所すら選べない。


「ルッチ……ルッチ……ん、っ」


譫言のように名前を呼べば、喘ぐ唇に噛み付くようなキスが落ちてくる。


「お前には黒がよく似合う。」


―――違う。
私は本当は黒なんて大嫌い。
不夜島よ。どうか消えないその光で私をかき消して、願わくば白く染め上げて。

いつも私に笑いかけるあの、給仕の少女のように。
―――――――――
2011 03 25

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