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諦めきれる訳がない!

※not固定ヒロイン。不夜島戦闘要員。


「お気持ちは大変有り難いのですが、お断りします。
カクさん立場がもう上過ぎて絶対気を遣いますから。では。」


不夜島で、一世一代の気持ちでヒスイに告白したカクはあっさりと振られた。
自慢ではないが、これまで女性に振られた事など殆ど記憶に無い。むしろ、告白される方がずっと多かったというのに。彼女は淡々と謝罪を述べ頭を下げると、足早に遠ざかって行く。


「ま…、待つんじゃ…!ヒスイ!ちょっと待てー!」


フリーズしていたカクが漸く動き出す。
呼び止められた事で足を留めた彼女は静かにカクがやってくるのを待っていた。


「わ、ワシの自惚れでなければ、おぬしとワシは仲は良かったと自負しているが?」
「そうですね。上役としてカクさんの事は好きですよ。でもCP9の方が恋人だなんて考えただけでぞっとします。」
「ワシは上官ではなく個人的におぬしが好きだと言っているんじゃが?」
「私にとっては仕事も含め貴方です。もっと立場的に釣り合う人か、全くカクさんを知らない人の方が良いと思いますよ。」


再び頭を下げて、立ち去ろうとするヒスイの腕をカクは反射的に掴まえる。まさか手が伸びてくるとは思っていなかったのか、彼女は驚いた顔をして俄に固まった。強い力ではないから暴れたりしない。カクの返答を待つが、彼も彼でどうすれば彼女が折れるか必死に考えていた。


「……納得出来ん。ワシはずっとヒスイが好きだったんじゃ!権力だなんだと言うなら、それを使ってでもおぬしは近くに置いておく!」
「カクさん、個人的にそんな事をしては印象が悪くなりますよ。私はそんな事望みません。」


カクが政府に入った頃から、ヒスイは既に不夜島に在籍していた。当時、まだ幼さを残していた彼は可愛らしい弟のようで、訓練中や島での滞在中は仲良く過ごしたものだ。
才能の面では直ぐに頭角を顕し、彼女より上に行くのも早かった。年若く、技能もあり、愛嬌もある彼を異性が放って置くはずもなく思春期の辺りからアプローチは目に見えて多かった。

カクの事は彼女も好ましく思っていたが、同僚の関係が丁度良いと思っていた。任務が入れば長期に渡り会えなくなるし、仕事が仕事なだけに心配もする。
それにいつか、政府の仕事を離れて何処か田舎の海沿いの街で暮らすのがヒスイの小さな夢だった。


「それに私、タイミングを見て此処を離れようと考えているんです。まだ申請はしていませんけど。」


さらりと爆弾発言をした彼女に、カクは瞠目する。彼女はそれに苦笑すると、そっと腕を掴む彼の手を外した。
久しぶりに触れた彼の手は大きく、大人になったなと今更ながらしみじみと感じた。
ふわ、と影が差す。抱き締められた事に気付いて、頬が熱くなるが、手首に拘束具を付けられてヒスイはさっと血の気が引いた。


「え?い、いや、あの……カクさん!?」
「すまんの、逃がす選択肢は無いんじゃ。考えを改めるまでワシの部屋に閉じ込めて置く。」
「いや、今すぐ辞めるとかじゃありませんから!まだまだ先の話ですよ!私、今日この後も仕事あるので。」

「ならそれは後日じゃな。ワシの目の前から消えようと段取るのを見過ごせるか!」


軽々と抱き上げられて、混乱する。これはマズイ。変にスパンダム長官に伝われば、穏便に退職が出来なくなる。もとよりカクがこんなに頑固だとは思わなかった。平時はスマートで聞き分けの良い彼を彼女は常々見てきた。


「カクさん、ねえ、落ち着いて下さい…。どうすれば?」
「難しいことは無いぞ。ヒスイがワシを好きだと認めれば良いだけの話じゃ。」
「私、恋人の職業は政府関係者以外を希望しているので。」
「ならそこだけ何とか目を瞑ってくれ。後は?」
「…。他はありません。…だって、貴方の事は好きですから。」


カクの動きが止まる。目が合うように降ろされ、彼女は恥ずかしさと気まずさで少し顔を逸らした。


「ワシが好きだと。」
「ええ。好きです。」
「じゃあこれから話し合おう。ワシも妥協出来る所はして行く。諦める事は絶対嫌じゃから。」


強引だなあ。だが、それが嫌でない事に彼女は苦笑した。
拘束具を差し出すと、カクは手刀でそれを外す。少しだけ赤くなった手首を擦ると、彼はそっと唇を寄せた。


「痕が残ったら責任を取ろう。」
「まさか。何ともないわ、この位。昔、カクと鍛錬していた頃の方が怪我は多かったでしょ。」
「それはそうじゃな。…敬語のない、昔のその口調の方が好きじゃ。」


ふ、と二人で笑い合い、触れるだけのキスをする。
たくさん悩んだ。理性的に諦めようとも思った。だが、カクの瞳と熱量を見ると、どうでも良くなってしまった。

見えない垣根を飛び越えてみる。
ただ、君が欲しいと。

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2022.09.28

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