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流浪楽士と海上商人と宝石姫1


※アニメ風塵乱舞。
「陸の都と水の都と」辺り。


ペシャワール城塞を飛び出し南方の湾港都市ギランを目指して再び少数で旅をするようになったアルスラーン一行。パルス領土を南下するにあたり、気候もまた変化する。照りつける太陽に装いも皆、新たに変え、サナハーレも軽装に顔を隠す布も外していた。


「宜しいのですかな?白蛇は面を明かさぬのでは。」
「…私が今、白蛇である必要はありませぬ、ギーヴ殿。隠すべき人間は周りに誰もおりませぬから。父王が追手でもかければ面倒ですが、先ずはエクバターナに目を向けられる筈。パルス軍陣営とぶつかることもないでしょう。」


にこやかに話す彼女は、一度だけ後ろを振り返る。
風を読んでいるのか、遠い目をした金色の光はどこか違う場所を見ているかのようだった。
久しく近くで見なかったサナハーレの横顔にギーヴは上機嫌で隣を固める。彼女が慕い、ファランギースと酒を酌み交わす万騎長クバードは今、いない。彼は邪魔者がいない道中を至極満喫しながら進んでいた。

丘を越え遠く見えてきたギランの港町は考えていたよりも大きく、広大な海に面しており、アルスラーンとサナハーレは目を輝かせた。


「海を見るのは初めてだ。話には聞いていたが、これ程のものとは。」
「ふふ、街に降りたら潮の匂いにきっと驚かれますよ。殿下。風も違います。」
「そうなのですか。姉上はギランには?」
「ずっと昔に一度だけ。」


笑顔でサナハーレはアルスラーンの隣を進む。久し振りに平和な旅だった。暑さゆえに馬を逸らせる事もしなかった為、会話は弾んだ。
ギランに入ってから馬を預ける間、各々は離れすぎないよう注意しながら町中を見て回った。活気あるこのギランの街並みはかつてのエクバターナを思わせる。しかしその栄光の影で当たり前のように働く奴隷の姿が目についた。
サナハーレは波止場に入港し、積み荷をおろす商船を黙って見つめる。まだまだアルスラーンの目指す道が実現するのは程遠い。浮かない顔で佇んでいると、ふと隣に風がふいた。


「この辺では見ない顔だ。商船が珍しいですかな?お嬢さん。」
「……ええ。港町に来る機会はあまりなかったもので。」


話し掛けてきた青年にサナハーレは丁寧に礼をする。平服だが上等な布を身に纏っている。少し日焼けした端正な顔に気さくに笑みを浮かべるパルス人のその男は、目が合うとその屈託ない笑顔を引っ込めて不思議そうに首を傾げた。
顔がつい、と無遠慮に近付く。


「ほぉ、これは驚いた。いや、遠目では琥珀に見えましたが、随分と珍しい瞳をお持ちなのですな。」
「いえ…、」
「旅なれしているご様子ですが此処は奴隷も行き交う場所。ご婦人一人では些か危のうございます。よければ近くの市場まで私がお連れ致しましょう。」
「い、いいえ!私は大丈夫です。あの…失礼しました。」
「あ、ご婦人、」


差し出された手を取ることはなく、サナハーレは緩く布を顔に巻くと、咄嗟に駆け出した。
人の良さそうな青年だった。しかし、何故だろう。精霊が妙にざわついていた。まだ街に来て間もなく誰に信用が置けるかも分からない。彼女は逃げるよう人波に身を割り込ませた。


「…?姫様?どうかされましたか?」
「!ギーヴ殿!」


狼狽した様子で市場を走るサナハーレを見かけて、呼び止めたのはギーヴだった。街へ入る前には外していた布を頭から被り、不安そうに金の目は揺らいでいる。談笑していた女達を笑顔であしらって離れると、ギーヴは小陰に彼女を誘った。何でもないと口にするサナハーレにギーヴは少し眉を歪めて苦笑を漏らす。布越しにそっと頬に手を寄せた。


「では何でもなくなったら、このベールをまたお外し下さい。それで宜しいか?」
「、…」
「ダリューン卿らも直き戻られる。少し二人で待ちましょう。」
「…はい」


ありがとう…、小さく囁かれた言葉にギーヴは内心どきりとしたが、おどけて隠した。彼女に頼られるのは嬉しかった。大抵の事はそつなくこなしてしまうし、彼女の方から相談事を持ち掛けるのはいつも片目の男だったから。

(クバード殿よりどう見ても俺の方が見目麗しく歳も近いというのに…解せん。)

この数ヵ月で、信頼は得てきている感覚はある。


「姫様、何かあればすぐ私の胸に飛び込んできて良いのですよ?」
「ありがとう、ギーヴ殿。十分、守って下さっています。」


そうではない。伝わらない事に頭をかく。触れそうで触れない肩。隣り合わせで壁に預けた背中。ギーヴは思わず手を握る。彼女は一瞬、驚いたがすぐににこやかにその手を握り返した。

初めて会った時も、こんな事があったと笑む王女は先程よりいくらか明るい顔をしていた。
詩に例えてもその澄んだ眩しさは表現出来るものではないと真面目に思う。しかし容姿を褒めても喜ばないのは分かっているのでギーヴはため息混じりに空を見上げた。
貴女の壁を壊したあの万騎長は一体どんな魔法を使ったのか。
余裕で声低く笑うクバードの顔が浮かんでギーヴは少し憎らしかった。
――――――――――――
シャガード名前出せなかった。
ので、また次回。
2016 08 02


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