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Kiss me Good bye07


窓から差し込む光が赤に染まる頃。
キンブリーはゆっくりとその瞳を開いた。
彼の部屋は地下にある為、外からの光は差し込まず昼か夜かは分からない。明かりもさほど白くない古ぼけたものだ。
寝そべっていたソファから大義そうに身を起こすと彼は飲みかけのワインを喉に通した。

度数の高いそれは身体に焼けるような感覚を走らせる。それに彼は満足そうに笑うと、すらりと足を床につけた。
長い獄中生活で内臓が畏縮し、未だ食べ物はあまり喉を通らない。だが、彼はそんな事にはあまり興味が無かった。
もとより身体など動けば何でも良い。
食や酒よりももっと彼には楽しみにしている事があるのだから。

壁に掛けてあるジャケットを取り、それに袖を通しながら彼はここの所見かけぬ女を思う。
合成獣の中で一人、異質な雰囲気を纏う少女。
控えめで、臆病で、理知的。一見、普通に振る舞っているが、あれは恐らくずば抜けて頭が良い。
だが、何故かそれをひた隠しにし、あくまで普通であろうとするヒカルに彼は興味を持った。


「…最初は何者なのか気になっただけだったんですけどねぇ。」


ぽつりと、零すように呟いて彼は自室を後にする。
ラウンジへ続く階段を登り、店内へ足を踏み入れると窓から差し込む光から夕方のようだと認識した。

ふと、視線があるキメラと絡まりかける。
しかし逸早く察した向こうがさっさと躱したので、キンブリーも追わなかった。
そんなものに興味はない。
デビルズネストでの彼の興味はヒカルだけだった。

***

数日ぶりに見た背中は、以前より更に少し細かった。珍しい。人と接する事をあまり好まぬ癖に、今日は客と話している。
逆光で顔はよく見えなかったが悪い顔はしていないようだ。それに僅かな驚きと、嗜虐心が沸き起こり彼は思わず口元を歪めた。

(どこを見ているんだ?お前は。)

なるべく靴音を立てず、彼はヒカルの方へ長い足を踏み出す。微かに耳に入る笑い声が今日はやけに癇に障った。
今、彼女の眼の前の人間を吹き飛ばしたら……ヒカルはどんな貌をするだろうか。
あの夜のよう、白い頬を涙で濡らして私だけを見つめたら。

静かに両手を合わせ錬金術を発動出来る状態にすると、彼は更に歩むスピードを少し早めた。
もうすぐ間合いに入る。
そうして、手を上げかけた時、不意に射抜くような殺気が肌にきた。


「ヒカル。」


この空間を支配する男の声。その男の声に、ヒカルは目を輝かせ嬉しそうに走り寄った。
不快な違和感がせり上がる。


「グリードさん!」


……少し前まで話も出来なかった癖に。
ただ、自分の隣に座って眺めている事しか出来なかった癖に。
ヒカルは、今、グリードに頭を撫でられ恥ずかしそうに俯いていた。
グリードの視線が、こちらを向く。キンブリーはそれを受け流すと、さっさと来た道を戻り室内を出た。
黒い感情がふつふつと腹の辺りから身体を浸食する。刑務所の中でもこれほど苛ついた事は記憶にない。怒りで頭痛がする。辺りが闇に落ちていく中、彼の金色の瞳だけが光を失わず、獲物を探していた。

誰でもいい。
誰でも。
あの女に見立てて爆発させてやる。

―――オマエごときに何故、私が。恩知らずも甚だしい女だ、

その表情は、狂気に歪んでいた。
その晩、ダブリスの街に声にもならぬ悲鳴と爆音が数度、夜の闇に轟いた。
―――――――――――
過去log


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