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沸き上がった腐海の森で4


任務を終えて東京シャッタードームの地下を、一人歩く。あれからアカデミーを卒業したヒカルは東京に戻った。同期で海外に出た者もいるが、彼女はあえて国内に残った。
迷ったがやはり日本を進んで出て行く事は出来なかった。世界を守るなんて大きな事を豪語する気はない。自分はパイロットではない、ただ彼女は自分の生まれ育ったこの地で生きていきたいだけだ。
シャワーを浴びて自室のベッドに倒れ込む。パイロットでなくとも訓練メニューは厳しく、体が悲鳴をあげる。夢うつつで寝入ってしまいそうな時、繋ぎっぱなしのパソコンがメールの着信を告げた。


「ん…」


目を擦りながら、体を起こす。ベッドから這い出して、デスクまで行くとスカイプのアプリが自動で立ち上がっていた。


『よぅ、ヒカル。なんだ、死にそうな顔してるな。』
「すみません、Mr.チェン。ちょうど寝るところだったので…、」
『日本人はすぐ無意味に謝るな。お前は何も悪くない。』


疲れていたが、チェンの笑い声を聞くと自然と気持ちが和んだ。偶発的に知り合った中国イェーガーのパイロット。命を助けてもらって、それでさよならになると思っていた。しかし、卒業後、彼女が東京に配属になると、向こうから連絡が入ってきた。

(香港を希望しろと言ったのに、何故なんだ?)

中国人とは今まで関わり合いがなかったが、何というか彼はとてもストレートだ。チェンの態度は思わず好意と勘違いしてしまいそうになるところがあった。
彼は優しくて、穴の開いた心は寄り添う事を自然と奥底で望んでしまう。しかしヒカルは芽を出そうとする愛を否定して、彼を見つめて小さく笑った。兄がいたらきっとこんな感じなのだろうと。


『なんだ、声がすると思ったらやっぱりヒカルか。調子はどうだ?』
「Mr.ジン。変わりないです。ここのところ怪獣の襲撃がないからドーム内も落ちついてます。」


チェンの後ろから彼と同じ坊主頭がひょっこり覗く。手を振るとチェンがジンを肘でつつき、彼は苦笑いしながら画面から消えた。

月に一度か二度。チェンは彼女と会話するのを楽しみにしていた。ふわりと笑う可愛らしい日本の少女。ヒカルはいつ連絡をしても、嫌な顔をしなかった。もっと傍で、ヒカルが見たい。声を聞きたい。遠く離れた彼女への想いは募るばかりで内心気持ちをもて余していた。
暫くは何も言わずに待った。彼女が卒業して香港に来れば傍で優遇してやる気でいたからだ。だが、配属で来たのは森マコという彼女と同い年くらいの別の女性だった。マコに聞けばヒカルは、自ら日本を離れる意思はないという。


『どんなになっても、東京はあのこの故郷だから…。貴殿方だって日本より、この中国大陸を優先的に守りたいと思うでしょう?』


返された正論。だが、しこりは残った。笑顔の裏で、彼女は何を思っているのか。他の感情も、あるはずなのにそれは未だベールに包まれたまま。電源を落として溜め息をつくチェンにフーが静かに歩み寄った。


「らしくない。いつまでオママゴトしてるんだ?」
「…全くだ。英雄なんて担がれて、何でも手に入るような気がしてたんだけどな。」


奪うのは容易い。しかし、美しい野花のような彼女を無理矢理連れ去る事はどうしてもしたくなかった。

(Mr.チェン!)

マイク越しでない、画面越しでない、君に会いたいだけなのに。
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2013 10 05

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