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黒で塗り潰す(幽遊白書*仙水忍)

※霊界案内人主。

成人して初めてついた仕事は霊界案内人だった。
膨大な仕事を目の前に月日はあっという間に過ぎていき、やがて彼女はある人間のサポートを任命された。


「…初めまして。これから霊界と貴方の間を取り持たせていただきます、ヒカルです。」
「仙水忍です。よろしくお願いします。」


紹介されたのはまだ少年と呼べる域の人間の子供。あどけない顔の男の子に、彼女は内心少し動揺した。しかし、彼が人間界に蔓延する妖怪を倒す様を見て何故、霊界探偵に任命されたのかをすぐに理解した。
自分と会話をする時の柔らかい表情は、戦いの時には一切なく、別人のような冷たさだけが彼を支配していた。


「ヒカル、怪我はない?」
「ええ。平気よ、忍。」
「良かった。」


妖怪の血だまりで明るく笑う仙水に彼女は酷い矛盾を感じていたが、口には出せなかった。
そうさせているのは自分達霊界だ。血の飛んだ顔をハンカチで拭く。目を閉じて身を委ねる仙水の姿に、彼女はふと泣きたくなった。こんな事を当たり前にさせたくない。
そんな権限が、彼女にありはしなかったが胸の痛みはどうしようもなかった。


「…どうしたんだ?やっぱりどこか痛むのか?」
「いいえ。」
「…大丈夫だ。僕が悪い妖怪から人間も君も、全部守ってあげるから。」

***

数年して、仙水が任務で妖怪の命を取らなかったと聞いた時、彼女は非常に驚いた。
それは彼が霊界探偵を始めてからなかった事だ。
何かあったのだろうか。気になって彼に会いに行くと仙水は思いの外、普通の表情で彼女は少し安堵した。


「…あいつ、死に際にドラマの話をしたんだよ。俺が殺そうとしてるのに。」
「うん。」
「吃驚した。まるで人間みたいな事を言うものだから。」
「妖怪も色んな妖怪がいるからね。…彼と話せて良かったね。」


やがて、その妖怪は忍のパートナーになり、彼女は別の任務に重きを置くようになった。
全く会わなくなったわけではないが、顔をみる機会は格段に減った。友人が出来てうまくやれているならそれで良かった。
うまくやれていると思っていた。
あの日、霊界が急襲され、黒の章のビデオテープが奪われるまでは。忍は消えた。何の痕跡もなく、言葉もなく、目の前から消えてしまった。
上官であるコエンマも確証があるわけではなく、捜索はやがて打ち切られた。


――また、再会の日が来るとは思いもしなかった。
10年間、音沙汰の無かった仙水が動き出した可能性が示唆されその裏付け調査に彼女も人間界へ派遣された。

あらゆる可能性がある場所を彼女は訪れた。
中には二人で野宿した、懐かしい場所もあった。
ある夜、闇の中で、ヒカルは一人佇んでいた。まるで待っていたように、彼女は近付いてくる足音に視線を向けた。


「…久しいな、ヒカル。あの頃と少しも違いない。」
「貴方は大人になったわね…、忍。樹は一緒にいないの?」
「彼にはある重要な仕事を任せてある。俺が今はサポート役だ。」
「…」


静かな深い森で交わされる言葉の音は冷えきっていた。真意の見えない目は恐ろしかった。上に連絡を入れなければ、そう思うのに、指は一向に動こうとしない。勝ち目などある筈もない。
気付けば拘束されていて、彼女の首は仙水に柔く掴まれていた。


「…あの頃、時々、君はそうして泣きそうな目をしていた。当時の俺はその意味がよく分からなくて悩んだものだよ、」
「…、」
「君ははぐらかすのが巧い女だった。…なのに、何故、今更俺の前に現れたんだ?誘うようにこの町に匂いを撒き散らして…、」


思わず殺してしまいそうだ、
当時よりずっと背の高くなった仙水は震えるヒカルに唇を寄せた。おとりでも罠でも構わなかった。あの頃、愛していた女性が変わらない姿でここにいる。彼の激情は押さえきれず、愛情と殺意が入り乱れて漏れ出していた。


「君が人間じゃなくて良かった。選ぶチャンスを与えられる。」
「…浦飯幽助はいいヤツよ。」
「ふふ、妬けるじゃないか。あの頃、君は俺をそんな風に近くに見てはくれなかったのに。」


暗い笑みに唇が歪む。あの頃、心配しながらも、突き放したようなヒカルの態度は彼の気持ちを受け取れないことを表していた。
変わらない女と、変わった男。仙水は昔と変わらない柔らかい顔で彼女に笑いかけた。


「いいさ、今は力で奪える。コエンマには俺から伝えておこう。」


君はもう、戻らない。
――――――――――――
2017 05 11

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