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続:少年兵の思慕(レイブン)


※少年兵の思慕の続き。


ガイロス帝国とへリック共和国による戦争が終結してから二年。
まだまだ課題は残るが、断絶していた国交は徐々に戻りつつあった。

いまだ燻り続ける不穏分子に対して両国の平和維持の為帝国と共和国が合同で設立するに至ったガーディアンフォース。同期であるトーマがそれに選ばれた時、素直にヒカルは嬉しかった。
彼が優秀過ぎる兄に、どこか引け目を感じているのは知っていたから。この人選が彼にとって自信に繋がる事を彼女は密かに祈っていた。


「一緒に来るか?ヒカル。GFとして私のパートナーにならないか。」
「…、ありがとう。でも私はいいわ。だって…シュバルツ中尉は私より優秀な技術者じゃない。ビークもいるし、私が貴方について行った所で大した戦力にはならないよ。」


安寧は願っている。けれどそれとトーマにただついて行くのは違う気がした。彼が助力を求めるなら喜んで力になるが、ヒカルもまた自分の中で変わらなければと内心足掻いていた。
戦争中はただ元帥に言われるまま、レイブンの乗る機体の整備に明け暮れていた。戦いは休む間なく続き、毎日毎日彼はゾイドを疲弊させて帰ってきたから。

だがそれが無くなった。
世界が落ち着いてくると彼女は軍人である事に疑問を感じ始め、新しい世界を見てみたいという気持ちが膨らみ始めていた。

(レイブン…)

出来る事なら彼には生きて、この世界に留まって欲しかった。彼はきっとこの平和な時間の幸せを知らなかったから。

そんな折り、任務に出ているトーマが重傷を負ったとの連絡が入った。ディバイソンも大破しているとの情報に後悔の念が込み上げる。何故、彼が一緒に行こうと口にした時ついて行かなかったのか。
高速機動のグレートサーベルに乗り込みヒカルは砂漠を駆ける。手が震えた。トーマが運び込まれた基地に辿り着いた時、彼女は初めて共和国軍のGFを目にした。

レイブンと、あのデスザウラーを倒した英雄。
バン・フライハイト。話には聞いていたが彼もまた年若いパイロットだった。


「容体は…。シュバルツ中尉は無事ですか。」
「命に別状はない。まだ意識は戻ってないけど…あんたは?」
「私は……名前はヒカル。以前、シュバルツ中尉と同隊に所属していた整備兵です。」


家族でも恋人でもない。けれど、彼は付き合いの長い大切な友人だ。バンは彼女に頷くと、快くトーマの眠る部屋に案内してくれた。
あちこちに巻かれた包帯が痛々しい。ベッド脇の椅子に腰かけると、眠る彼の唇から信じがたい名前が零れた。


「……ぅ、…レイ…ブ、ン…」


目を見開いて弾かれたように彼女はバンを見上げる。聞けば彼は生きていて手当たり次第軍事基地を襲っているのだと聞かされた。

生きて、いた。
その事実は嬉しかったが、こんなに傷ついたトーマを見て喜べる筈はなかった。
その時、基地内の警報が鳴り始める。急襲を告げるアナウンスにバンと病室を飛び出し、モニタールームへ駆け込むとそこにはジェノブレイカーが映し出されていた。


「あれにレイブンが乗ってるの?」
「ああ。…あんた、戦闘用ゾイドで基地に来たけど戦えるのか?」
「…ええ、まあ。…私も出るわ。邪魔はしませんから。」


レイブンと戦うなんて考えた事もなかった。戦争当時、彼は一応味方だったしゾイド戦を自ら買ってでる事を彼女はしなかった。しかし今は違う。ここには負傷したトーマがいる。ヒカルは迷わずグレートサーベルに搭乗した。

彼女以外はバンのシールドライガーとコマンドウルフ。
真っ赤なジェノブレイカーと対峙すると、すぐに戦闘は始まった。
こうして戦ってみるとレイブンの強さは文字通り桁違いだった。機動力、破壊力、全てに置いてこちらの上を行っていた。凄まじい力に目を見張る。…こんなにも彼は凄かったのだ。過ぎた力を持ってしまっていたのだ。二機が荷電粒子砲の前に倒れた後、彼女はジェノブレイカーの前に飛び出した。


「帝国のゾイドか…お前は見ない顔だな。」
「…そうでしょうか。私は貴方をよく知ってる。」
「!」


ミサイルを撃ち込んで、煙幕の中接近戦に持ち込む。周囲にあまり知られていないが搭乗者としても彼女は優秀だった。ただ彼女は女であったし、パイロット志願者は帝国には豊富にいた為、必要ではなかったのだ。


「…ヒカル、」
「レイブン…戦争は終わった。もう基地を…ゾイドを破壊するのはやめて下さい。」
「……僕を倒す気か?相変わらず、あんたは甘いな。命を取りに来ないあんたに僕が殺されるとでも!?」


機体をジェノブレイカーに尾で殴り飛ばされる。岩肌に叩き付けられた衝撃で一瞬、息が止まりヒカルは酷く咳き込んだ。
コクピットの強化ガラスが割れた隙間から彼女はジェノブレイカーに引きずり出される。
朦朧とした意識の中で見上げた青年は随分大人びていて、二年以上の月日を感じた。
惚佛とした表情に伸びてくる彼の手が怖くなる。抵抗しようとするが、怪我に加え、レイブンはすっかり成熟しており、ものともせず彼女を肩に担ぎ上げた。


「冗談だと思ってたんだろう、あんたは。」
「…やめ…、」
「でも僕は本気だ。あの頃から、僕はずっと本気だった。」


やっと、捕まえた。
噛み締めるようにそう、呟いたレイブンに彼女は黙って涙を溢した。
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2014 08 10

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