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友人という名の愛情(シュバルツ弟)


※GF編の初期〜中期辺り。


失いそうになって初めて気付いた。
ヒカルの出向している基地が何者かに襲撃を受けたと連絡を受けたのは、事が起きてから二日後の事だった。
送られてきた基地の映像は酷いものでトーマは血の気が引いた。自分はゾイドを駆るパイロットであり、前線を任される兵士だ。死と隣り合わせである事も覚悟しているが、彼女は違う。

ヒカルは整備兵だ。
いつも帰りを待っていてくれる側の存在の筈の。


「ヒカル…!」


病室の扉を開けると、白いベッドの上で眠っていた。以前、入院した時、意識が戻って彼女がいた事を思い出す。
取り乱す事なく、でもとてもほっとした顔で笑ったヒカルに安心したのを覚えている。込み上げる焦りと怒りを殺して、トーマは静かに腰を降ろした。
思えば、弱った彼女を見るのは、ヒカルが養父を失った時以来だ。普段は力強く頼れる彼女が、とても弱々しく…抱いた肩は支えていないと崩れてしまいそうだった。初めて出来た友人。家族を失った彼女を大切に守って行こうと、あの時、心に決めた筈だったのに。


「………トー…マ?来て、くれてたの…。」
「、気付いたのか!」
「ゴメンね…。でも、生きてて良かった…。心配かけた事、謝れて。」


気が付いた彼女は微笑みながらも、少し残念そうな表情を浮かべたのをトーマは見逃さなかった。咄嗟に手を握る。ヒカルは不思議そうに目を瞬かせ手を引っ込めようとしたが、彼は放さなかった。


「…俺の所にくるか?」
「え?」
「シュバルツの籍になるか、と聞いている。」


ヒカルには、トーマの言葉が一瞬、理解出来なかった。冗談かと思うが、真剣な目で見つめてくる彼に、小さく首を横に振る。自分の立場は理解している。自分の家は宿舎と、養父の住んでいた帝国領の僻地にある空き家だ。それだけで充分だ。
トーマは帝国の名家の生まれだが、壁のない友人。その距離で充分。それにトーマには想い人がいる事を彼女は知っていた。

古代ゾイド人のフィーネ。
共和国側に身を置く彼女だが、特別な存在であり、美しく清廉な女性。彼女に出会ってからトーマはよくフィーネの事を嬉しそうに話していた。


「…私は大丈夫よ、トーマ。トーマは、フィーネさんが好きなんだし……貴方はシュバルツ。私が立ち入れる人じゃない。」
「俺はただお前を守りたいだけだ。家は兄さんが追々継ぐ。…フィーネさんの事は、確かに好きだと感じたし憧れていたが、…こんな気持ちではなかった。」
「…。」

「今更だが、私はお前が大切だ…ヒカル。同情ではない。俺が、お前を失いたくないんだ。」


泣きそうになって、顔を背けた。養父が助けてくれた時と、トーマの表情がよく似ていてヒカルは胸が痛んだ。ありがとう、そう呟いた声は震えてしまった。
繋いだ手は暖かく、安心した。しかし、怖かった。失う事の恐怖が、彼女が一歩を踏み出す事を押し留めた。


「…ありがとう、トーマ。でも…私、戸籍なんて必要ないわ。軍を退役するつもりもない。私は貴方が近くにいてくれるだけで幸せだから。」


こんな優しい友人を持ったまま、死んで行けたら本望だ。置いて行かれるのは、もう、耐えられない。トーマの着眼は正しかった。

彼女は命を取り留めた事を喜んだ反面、このまま目覚めなくても良かったという思いを秘かに抱いていた。

(お義父さん、どうやら会えるのはもう暫く先になりそうだわ…)

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2015 04 19


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