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02過去と邂逅


「どういう事ですか…!ニブルヘイムが全焼というのは…!!そんな、そんな馬鹿な事が…」
「言葉の通りだ、士官。あの村は焼け野原となった。セフィロスの手によってな。」
「……部隊は。セフィロスの部隊は!?…私の義兄は!!?」

「――行方知れずだ。…諦めろ。」


***

「………っは…。」


どくん、どくんと心臓が不規則に脈打つ。
ゆるゆると意識が覚醒に導かれていく中でヒスイリアはゆっくりと重たい瞼を開いた。
目の前に広がるのは白く高い天井で、少し横に視線をずらせば豪華なシャンデリアが見える。一般人にはほぼ無縁の応接間だ。
酷い目眩を堪えて身体を起し、辺りを見回す。手首を纏める拘束具が邪魔だったが一先ずそのままにしておいた。体重の移動に比例して、転がされていた黒い革張りのソファが僅かに軋む。
そうして改めて室内を見渡せば離れたデスクに座る男と目が合った。


「気分はどうだ?」


書類に目を通しながら、青年は彼女に尋ねる。
窓から差し込む日の光で彼の髪はゆらゆらと金色に揺らめき、蒼の瞳は澄んだ遠浅の海のように輝いていた。


「……ルーファウス…神羅…?…っ、」
「ツォンらが少々乱暴したらしいな。まだ気分が優れんならもう少しそこで横になっていると良い。」
「……ツォン…?………」


ルーファウスの言葉で数時間前の出来事が走馬灯のようにヒスイリアの頭に甦ってきた。
まだじんじんと痺れたように痛む頭を押さえつつ、ヒスイリアはゆっくりと背もたれに体を預ける。一体、どれだけ強い薬を嗅がせたのだ。彼女はこっそり胸の内で毒づいた。


「…『普通』の生活は楽しかったか?」
「……いつから知ってたんです。私が下層にいる事を。」
「つい最近さ。親父が死ぬ少し前かな。セフィロスとなんら見劣りしない力を持っていた君がまさかスラムで働いているなど思いもしなかったものでね…。探し出すのに五年も費やしてしまった。」


下を向いている為表情は分からないが、声から察するに彼は皮肉げに笑っているようだった。
身を隠した所で神羅から逃れる事など出来ないと。
愚かしい事をしたと思い知るがいいとでもいうように。ヒスイリアは頭に反響する声を振り払うよう、彼に向かって口を開いた。


「……お聞きしたい事があります。」
「ほう。何が知りたい?」
「…セフィロスの事です。タークスから彼がここを襲ったと聞きました。」
「ああ。真実だよ。おかげで出張から戻った途端、こうして事後処理に追われている…。親父だけでなく社員まで好き勝手に殺して行ってくれたからな。おかげで社内は血の海。流石に隠蔽も追い付かず、退社する者も増えた。全く持って迷惑な話だ。」
「………。」


ヒスイリアは堪えかねて深いため息をつくと、掌で目を覆った。
彼の他人事のような演説めいた説明にも呆れたが、自身の気持ちの整理も追い付かない。
無理矢理、神羅に連れ戻されて。
行方不明で…もう死んだものと思おうとしていた人間の生存をこうも突然告げられて。

唐突に事が起こり過ぎてヒスイリアは頭の中がぐちゃぐちゃだった。
ただ――――セフィロスが生きていた……その事実がヒスイリアの胸に突き刺さり、込み上げるもどかしさに泣きそうになっていた。


「では私からも聞かせてもらおうか。ソルジャーとして、もう一度神羅に復帰するか、しないか…君の口から答えを聞きたい。」
「……。断れば、市民の前で銃殺にでもしますか?」
「ふふ…やり方が強引なのは許してくれたまえ。先程も言ったがセフィロスのおかげで人手不足なのだ。
是が非でも優秀な人材が欲しい。――それに…」


言いながら、ルーファウスは最後の書類にサインすると椅子から立ち上がり、ヒスイリアの方へ歩きだした。


「今回の任務はセフィロス絡みだ。悪い話ではないだろう?元・ソルジャー1st…ヒスイリア=フェア。君の義兄はセフィロスに…」
「…ッ、義兄を引き合いに出すのはやめて下さい!!
義兄が死んだのは会社がすぐ助けに行かなかったから…」
「まだそうして都合の良い幻想にすがるのか。」


ヒスイリアは勢い良く身体を起こしルーファウスを睨みあげた。感情的になり、恐ろしい程に殺気を放つヒスイリアに、ルーファウスは一歩下がる。
拘束具があろうとも、彼女は元一流の私兵。難なく殺しにくるだろう。


「…悪かった、今のは失言だ。機嫌を直してくれないか。」


返事はなかった。
が、ヒスイリアは殺気を納め、ルーファウスから視線を外し、俯いた。涙はなかったが、その姿は小さな子供に戻ったようで。ルーファウスは彼女が落ち着いたのを見計らってそっと隣に腰を降ろした。


「…随分と髪が伸びたな。美しくなった…。あの頃は男か女か分からないような娘だったが。」
「…………。」
「セフィロスを追え…ヒスイリア。君自身知りたかったはずだ…。あの場に居た者しか知り得ない

ニブルヘイムでの、あの事件の真相を。」


耳元で響くルーファウスの言葉は、甘い毒のようだった。
微かに香る彼の香水の香りに忘れかけていた目眩が再発する。
ヒスイリアは頬を撫でるルーファウスの手から逃れるよう身を捩るとソファの最端まで逃れ嫌悪感を露にした。


「………少し…考えさせて下さい…。」


僅かに震える声で告げる。ルーファウスは少し震えている彼女の背に柔らかな白地のストールを掛けるとソファから離れた。


「…三日やろう。その間に答えを出してもらいたい。」
「…わかりました。」
「私はこれから会食で明後日まで戻らない。…部屋は後程用意させる。拘束具も、私からの敬意として外させよう。」
「…」
「ビルから出ても構わないが…くれぐれも妙な気は起こさないようにな。君ではなく君の周りが迷惑を蒙る。」
「…逃げたりなんかしません。」


ヒスイリアの返事にルーファウスは満足げに微笑んだ。


「話が早くて助かる。必要なものがあれば遠慮なく言いたまえ。」


それだけ言うと、ルーファウスは書類を持って部屋から出て行った。
一人部屋に残されたヒスイリアは、ぼんやりと窓から見える青い空を見つめる。


「………………義兄さん…。」


窓の外に向かって切なげに呟いた声は、誰にも届くことはなく霧散した。
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2005.02.06

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