素敵な恋をありがとう



※イナゴ軸



嫌いよ、嫌い。大嫌い。

私を選んでくれなかった貴方なんて、
あの子との約束の指輪をつけてる貴方なんて、
私に黙って貴方と婚約したあの子なんて、

嫌いよ、嫌い。大嫌い。


でもね、


貴方に「おめでとう」って言えなかった私が一番嫌い。


「俺、夏未と結婚することになったんだ」


海外から日本に帰って来てるから久し振り会わないか、なんて言われて。貴方に会えるのが楽しみで。普段はあまりしない化粧も頑張って。買ったけど使っていなかったネックレスだってつけてみたのに。


貴方の口からそんな言葉が飛び出てくるなんて。


ねぇ、円堂くん。好きよ、貴方のこと、大好きよ。
初めて会ったときは、一之瀬くんに似てる、て思ってただけだった。だけど、だんだん、貴方自身に惹かれたの。一之瀬くんじゃない、円堂くんに。
気付いたら貴方のことで頭がいっぱいだった。少しでも貴方の側に居たいと、そう思うようになった。


本音を言うとね、夏未さんが海外に留学するって聞いたとき、やったって思っちゃったの。これで今までよりもっと長い間、円堂くんの側に居られるって。
でも、夏未さんの留学は円堂くんのことを思ってのことだった。貴方のことに一生懸命な夏未さんに、貴方が少しずつ惹かれていったのは自然なことだと思う。


結局、私とあの子とじゃあ違いすぎてたの。
生まれも育ちも境遇も。恵まれて無かった、なんて思ってないわ。でもね、やっぱり夏未さんには敵わなかった。どれをとってもあの子の方が輝いていた。やっぱりみんながみんな平等じゃ無いのよ、この世の中。


それでも、貴方に恋をしたこの数年間は本当に素晴らしいモノだったよ。毎日が輝いていたし、貴方の活躍に耳を傾けて喜ぶ自分も好きだったの。恋は女性を輝かせるっていうけど、あれは本当ね。だって私は輝けた、ほんの少しだけど、綺麗になれた。


だから、だからね。


「結婚式には絶対に行くよ」


そう約束したの。綺麗にした貴方たちの前では絶対に笑って「おめでとう」って言おうと思って。
だから、貴方たちには絶対に幸せになってもらいたいの。二人が何時までも仲良く、喧嘩しないように。ずっと祈ってるわ。


「秋!」
「秋さん、来てくれたのね。ありがとう」


今、私の前には円堂くんと夏未さんが居る。トレードマークのバンダナを外し、タキシードを着ている円堂くんと、白いウエディングドレスに身を包んだ夏未さん。二人とも、よく似合ってるよ。とても素敵。
夏未さんの手を取ってぎゅ、と握る。


「秋さん…?」
「お幸せにね。二人とも、本当に、」


あ、視界が歪んできた。泣いたら駄目じゃない。折角の二人の晴れ舞台なのに。泣かないって決めたのに。
ほら、笑って。木野秋、笑うのよ。


「おめでとう」


漸く、言えた。これは本心。嘘じゃ無いわ。末永く、お幸せに。


円堂くん。貴方に恋をして、私は輝けた。
だから、だからね、



素敵な恋をありがとう







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