Camellia
(概要/人物)
#twnovelで綴る彼等の日常。一人称多め、流血表現有りますのでご注意を。
冷たい空気が首元を通り過ぎた。もう一枚羽織ってくれば良かったかと内心後悔しながらよく晴れた空を見上げる。鋭さを纏う蒼。それが何故か隻眼の彼を想像させて、ふと自分の首筋に手を宛てる。願わくは彼が似合うと笑った椿のような最期を、彼の手で。
(菊坂)
片方の目を喪ったのはいつだったかと記憶を遡る。記憶操作がされている脳ではどうせ明瞭に思い出せないが、と溜息を吐き出して、頬に触れる。其処に存在はすれど色も視力も亡い、只の硝子玉。緋が似合う彼が再び触れたなら、其処に色が戻らないだろうかなんてふと考えて、笑った。
(悟)
長い睫毛に縁取られた眸が何処か遠くを眺めていた。声を掛けるのを一瞬躊躇って、けれど、気配を感じた相手がゆっくりと振り向いた。虚と、少しの殺気を携えて。ゾクリと背筋が冷えると同時、彼はいつもの仮面を嵌めて微笑する。見惚れるほど残酷で怜悧な、深紅の薔薇。
(都離)
ボディーソープ変えた? と唐突に訊かれた。……何故分かった変態上司。睨み付けるが、相手はにっこり笑って此方の首筋に顔を埋める。「ちょ、なに」「柑橘系のいい香りだね。オレンジかな」揺れる金糸が頬に触れる。馨る薔薇。それに混ざる血の匂いに、何故か少しだけ安心した。
(離都)
細くて、ともすれば容易に折れてしまいそうな彼は、凛として差し向かいの席に座っている。その艷めいた黒髪は何か紅い華が似合いそうだ。和の雰囲気があるから、牡丹か椿かーーと思案していると、心の裡を読んだかの様に彼は言う。椿とは海柘榴とも書くらしいと。成程、同属か 。
(離菊)
部屋中に充ちる甘い香りにいい加減酔いそうだった。黙々と追加のクッキーを焼いている彼を横目で見ていると、笑んだ彼が決まり文句を声に出さずに言う。笑って応じて飴玉を投げ渡す。生真面目な彼は悪戯なんて生半可な真似は出来ないだろうから、予防線を張るに越した事はない。
(悟菊)
目の前に、美味しそうな珈琲が置かれた。あの人は外見そのまま紅茶派だから、自ら淹れる以外で飲むのは久しぶりだ。有り難く一口戴いて、相手を見る。自分の上司も(変態だが)美形の部類には入るのだろうが、この人も綺麗な人だと思う。自分の上司よりも数倍マトモな人なのは確実だ。
(都菊)
どうぞ、と内から声があった。開けると珈琲の薫りが漂ってくる。いつも羽織っている白衣は非番だからだろう、傍らのハンガーに吊るされていた。突然の来客にも関わらず新たな珈琲を作り始める彼の背中に問い掛ける。つらくはないのかと。痛みを感じないから。それが彼の答えだった。
(菊三)
晒されたその眸は、色を喪った灰色だった。あまり綺麗なモノじゃないから、と苦笑しながら其れを覆う眼帯を手にする彼の腕を掴み、触れても良いかと問う。刹那虚を突かれた様な顔をした相手は、けれど一言どうぞと答える。そっと触れた目許はとてもつめたくてかなしかった。
(菊悟)
「彼はとても可哀想な子だね」「自分で掬い上げておきながらその科白か。憐れに思うならあの時殺してやれば善かったろう」「ううん、それじゃ駄目なんだよ。あの眼は、近くに置いておいた方が良い」「昔のお前に良く似た眼をか? 馬鹿らしい」「そうだね。ただの、同属嫌悪だ」
(離菊)
……此れ程までに寝顔が美しい男を、今まで見たことがなかった。唯でさえ性別不明に成りかねない容姿をしていると云うのに、瞼を閉じると更にその境界線が曖昧になる。艶然とした虚を湛えた眼が見られないのは少し惜しいが、彼が少しでも休めるのなら、この時間も悪くないと思えた。
(悟菊)
壊れてしまったんだと、何処か遠くで思った。嗚咽とも哄笑ともつかない声を絶えず発しているそれは、確かに化け物で、血の繋がった、姉。潰された気管と、自由の利かない肢体で、希う。……嗚呼どうか壊さずに、貴女に触れる術を教えてください。
(支倉)
痛い、と。痛覚を感じない筈の躯が訴えてきた。軋む躯を起こすと、視界に入ったカレンダーがその答えを示す。一度意識してしまうとその単調な数字さえ見続ける事が出来なくて、手元に視線を落とす。指環を模した、薬指の刺青。外さないのだから善いだろうと。「……痛いだろ、莫迦」
(三國)
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