今は体育の時間。女子はバドミントンをしていて男子はバスケをしている。
大きな体育館は天井から床まで垂れ下がる緑色のネットで二分割されていて、それを男女で分けて使っている。私はネットの端っこらへん、ちょうど男女の境目でラケットを持ってしゃがんでいた。クラスで二人組を作ると一人余る。そのあまりが、今日は私の番だった。試合をしなくて済むし、なんたってめんどくさい体を動かさなくて良いので丁度良い、そう思いながらネットの向こう側のバスケをしている男子達をぼーっと眺めていた。なんか、体育って男子がやってる競技が楽しそうに見える。隣の芝生は青い、ってやつだな。そう意味のない事を考えていたら、一人の男子がこっちへやってくるのが視界に入った。――あれは、高峰だ。
「よう南城、お前余り?」
「そうだよ。女子で二人組作ると誰かしら余るの。……もしかして、高峰も?」
「俺はちげーよ!」
「なんだー、違うの」
「俺はただ、さっき顔にボール当てられて休んでるだけ」
「へぇー。保健室とか行かなくて大丈夫なの?」
「少し鼻血出たけど止まったから大丈夫」
「そう、ならいいけど」
つかの間の静寂。私は隣に高峰の存在を感じながら、周りを見回した。女子はキャーキャー言いながらバドミントンの試合をしていて、男子の方を見ると、誰かが丁度ダンクシュートを決めたところだった。 ……わ、思ってたよりすごい。私、生で見たの初めてかも。
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「なぁ南城」
俺は苦し紛れのように南城に話しかけた。南城の視線が、たった今ダンクシュートを決めたバスケ部の堀井に向いていたからだ。まるで堀井に見とれているようで、なんだかやきもきした。……あんなダンクシュート、俺だって出来る。
「なに?」
南城の黒い瞳が俺を見る。 やばい、何話すか考えてない。
「あ〜……あのさ、今日昼飯一緒に食わね?坂谷と、水谷と4人で」
男子ばっかでいやかな。これこそ、苦し紛れだったかも知れない。
でも南城は気軽に「いいよー」と言った。 なんていうか、こっちの気なんて知らないんだろうな。
あー、あいつらにどうやって話そうか。最近一緒に食べてなかったからなぁ。何も言われなければ良いけど。うるさいんだよな、特に結城が。
「4人でお昼食べるのなんて久しぶりだねー」
「考えてみればそうかもな」
「こっちの女子のつきあいなんてものがあるからさ、最近一緒に食べれてなかったよね」
理由は多分、それだけじゃないと思う。俺が南城のことを意識するようになってから、何となく昼飯に誘いづらくなった。そこに南城の友達づきあいも加わって、一緒に食べる事が少なくなったんだと思う。
ドクン、と心臓が波打つのを感じた。
「おーい高峰!もう大丈夫だったらチーム入ってくれ!」
男子の一人が叫んできた。そろそろ戻らないと。「じゃ、あとで」 そう言い、南城の隣をはなれる。後ろからは南城が「うん、じゃあねー」と言ったのがきこえた。
男子の群れに走っていくと、すぐにボールが投げられてきた。素早くドリブルをしてリングへと向かう。ダンクシュートをするつもりだ。 ボールが床をはじく音が、バクバクとこだまする心臓の音と重なってきこえた。
心音がきこえる
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加筆 110604
加筆訂正 130126