榊原女史の幸運【ろ】








《色葉、色葉!》


「うん?」


 名前を――“榊原色葉”という“私”の名前を――呼ばれて、私は『忍たまの友』から顔を上げた。



 時刻はちょうど授業と授業の間の中休み。

 私が入った『ろ組』というクラスは、毎年犬猿の仲になる『い組』と『は組』に挟まれてはいるものの、クラスメイトの雰囲気は悪くない。

 無口過ぎる少年と元気の良過ぎる少年二人の個性が際立っていても、比較的穏やかで大人しい生徒が集まっていた。

 だから、一年生でありながら中休みで教科書を開くという真面目っぷりを見せていても、煩く遊びに誘う子はいなくて楽だ。



「何か面白いものでも見つけたか?」



 呼び掛けに小声で返しながら見上げると、私だけにしか“視えない”あの少年霊――偶然同じ苗字の“榊原倫太郎”――は小さな指で廊下を指した。


 彼の指の先を追えば、実習帰りだったのだろう一年は組の集団があった。

 今の私もそうだが、まだ十歳と幼い(現代だと小学校四年生だし)から、ちまちまころころとして見ていてとても和む光景だ。

 戦の多い室町が時代背景にあっても、きゃっきゃっと無邪気な笑い声を上げる子供の声を聞くと平和を実感する。

 可愛い。


《あの子、だいじょーぶかなぁ・・・?》


「あの子って・・・・・・ああ、善法寺か」


 入学してすぐ目についた少年だったから、名前もすぐに覚えた。




 一年は組“善法寺伊作”。


 ただ歩くだけで何も無いところで転び、一日に何度も落とし穴やからくりに引っ掛かり、教材をぶちまけるetc・・・様々な不運に見舞われている少年。

 彼が所属している保健委員会もなかなかの不運揃いとあって“不運委員会”と呼ばれているが、彼はその中でも随一の不運。

 そのせいで忍術学園一の不運少年として有名である。



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