八つ当たり





【流転】の針主成代で“八”の可能性【八つ当たり】







「初めまして―――そして、さようなら」



 隠し持っていた杖を素早く取り出し、私は目の前の人物に攻撃魔法を向けました。

 交わした文字は80字足らず、同じ空間に立って8秒足らず、顔を合わせて1コンマも経っていない関係で唐突な攻撃。

 狙いを外したわけではなかったのですが、多少は警戒していたのでしょうし、相手はよほど優秀なのでしょう。

 私が放った光線から急所を守りきり、風穴を開けた左脇に手を当てて立っています。


「・・・・・っ・・・・いきなり何をするんだ!」

「腹が立ったもので」


 お綺麗な顔を歪め、余裕を捨てた声、真っ赤な瞳に険しい色を宿した彼を見て胸のすく思いがしました。

 調子に乗ってくるりくるりと杖を回して見せる。気分は上々、避けられることは予想の範囲内、良い準備運動になりました。


「腹黒眼鏡と血が繋がっているわ、中二病をこじらせたロリコンに目をつけられるわ、ストーカーじみた白髭クソジジイに付き纏われるわetc・・・と非常にストレスが溜まる日々が続くものですから、ちょっとしたことで苛立ったり嫌悪したりと精神不安定になってしまうのです」

「・・・・・・へぇ、そのストレスのはけ口に僕を選んだというわけか」

「ええ。ちょうど良い時に声をかけてきて、ちょうど良い時に現れて、ちょうど良い異空間に連れ出してくださったので」

「ひどい八つ当たりをするんだね」

「八つ当たり、ですか?」


 憎々しげに紡がれた言葉にきょとんと目を瞬きました。

 そんな様子ですら癇に障られるようで、剣が一層強まってしまいましたが。



「初対面で無抵抗で無関係の相手を攻撃するだなんて、卑劣極まりないことだ。英雄ともてはやされているようだけど、中身はそうでもないみたいだ」



 吐き出された嘲りに、くすくすと空気が震えました。

 ああ、いけませんね。余計気分を害させてしまったようです。お綺麗な顔が更に歪んで歪んで、親の敵を見つけたように睨んでいます。

 彼の気分に呼応するかのように、校舎内を再現した空間が蜃気楼のように揺れました。いつこの空間が壊れてもおかしくない、ということでしょう。



「無関係?―――いいえ、無関係なはずがないでしょう」



 それまで抱えていた腹立たしさが嘘のように晴れていくのがわかります。

 ふふふ、我ながら珍しいほどにポーカーフェイスを作れません。笑ってはいけないのに、笑ってしまいます。

 腹筋の震えを抑えるのに必死で、何も考えられません。

 どうしましょう、頬が緩んで仕方ありません。




「てめぇが全ての元凶だからな、ヴォルデモート卿」




 揺れた。


 空間の主よりも俺の気分を優先するかのように、揺らぐ。


 俺の魔力が一気に噴き出し、侵食し、侵略し、埋め尽くしていく。


 顔色を変えたトム・M・リドル・・・・いや“ヴォルデモート卿の欠片”に杖を突きつけて、俺はほくそ笑んだ。





「責任をとってもらおうか」





 さぁ、私のストレス解消の為にも遊戯をしましょうか。


 俺の俺による俺のための遊戯を。



〜〜〜〜〜〜

八つ当たり
→腹を立てて、関係のない人にまで当り散らすこと。語源として「四方八方」からきており、「八方」は「あらゆる方向・方角」のことを指す。つまり「八方に当たる」という意。

この後リドル氏がどうなったかは皆さんのご想像にお任せします(笑)

(2014年10月18日 灯)


bacK

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