おやつ





【パンドラ】で“八”の可能性【おやつ】







 近くの島でお祭りがあるらしい。


 白ひげ海賊団も何度か立ち寄ったことのある大きな島で、今回も足りない物資の補給のために立ち寄ろうと向かっていて、白ひげに好意的な島民たちが船を見つけてわざわざチラシを持ってきてくれたらしいとか。


(・・・・・お祭りかー、最後に行ったのは地元の夏祭りだったかな・・・・)


 ナマエも行ってこいよ!と説明の締めにそう言って、ハルタさんはあたしにもチラシをくれた。

 この世界だからそれほど印刷技術は高くなくて、貰ったチラシもそれほど詳しいことは載っていなかったけれど、お祭りらしいイベントがあって様々な屋台道々に連ねるらしい。実に楽しそうだ。

 そしてあたしもチラシのとある一部分に目が釘付けとなった。




『10歳以下のお子様にはわたあめプレゼント!』




(・・・・・ふあふあ・・・・)


 特別“わたあめ”が好きだったわけじゃない。

 お祭りといえば“りんご飴”が定番で、“わたあめ”はかぶりついたら口元汚れるし千切って食べるにしても手が汚れるしお土産に持って帰る間に潰れることもあったから、あたしはあまり買わなかった。

 何より・・・・ちょっと恥ずかしかったのだ、大人にもなって“わたあめ”を食べ歩きするなんて。


(・・・・今は見た目5歳前後だから問題なし、だし・・・・・・ふあふあ食べたい!)


・・・が、一つだけ問題がある。


 あたしはこの世界では小柄過ぎるらしい。

 日本人という種族的には問題ないと思うけれど、周囲としてみれば心もとないようで・・・・・・サッチさんはあたしの栄養管理に燃えている。

 島に立ち寄る度子どもの教育や栄養に関する本を買い漁っては熟読し、1日3回のご飯に加え朝夕のおやつまで栄養計算ばっちりである。


(・・・・エースさんにあげちゃった時は、そりゃあもう怒られたしなー・・・)


 だってあんなに物欲しそうに見られたら、ねぇ?


 でもサッチさん曰く『子どもは成長が盛んだからさ、大人に比べて体重あたりのエネルギーや栄養素が多く必要なんだよ! し・か・も! 消化吸収機能も未発達だから一度に食べられる量が少ねェし、1日3回の食事だけじゃ必要な栄養量を満たせねェんだよ! だから3回の食事で摂ることができなかった栄養分をおやつで補うんだよ! エース、てめェはこれ以上でっかくなる必要ねェんだからナマエのまで盗んじゃねェッ!!!』とのこと。


(・・・・・さて、ここで問題です。わたあめの材料は何でしょう?)



――答え『砂糖』。



 糖分しかないものを摂取して良いのでしょうか。

 いくらお祭りだからって、徹底的に栄養管理されている身で他のものを摂取するのはどうなのでしょう。

 一回や二回くらいなら大丈夫!なんてダイエットや禁煙に失敗した人の台詞だし。


(・・・・サッチさんにバレたら怒られる、よねぇ?)


 かといってサッチさんの目を盗んでこっそり食べに行ってこっそり帰ってくる、なんてことは“子ども”なあたしには無理なワケで。共犯者が必要なワケである。


「・・・・・マルコさーん・・・」

「ん? どうしたんだい?」


 マルコさんが一人になるのを見計らって、あたしは声をかけた。

 私室にいるということは忙しい時ではないようで、マルコさんは前の島に立ち寄った時に買った本を読み返しているようだった。


「あ、あの! マルコさんは今回島におりますか?」

「ああ。四番隊が船番に当たってるからな、読み終わった本でも処分しようと思ってるよい」

「(やった! サッチさん留守番だ!)あの・・・・あたしもついていっていいですか? サッチさんにはないしょで」

「サッチに?」


 怪訝そうなマルコさんにそろっとチラシを差し出す。

 もちろんわたあめのことが書かれた記事を指差しながら、である。


「わたあめが食いてェのか?」

「はい。でも、わたあめってサトウしか入ってないらしくて・・・・・・・サトウだけじゃ体にわるい、ですよね? ごはんじゃなくて、おやつのつもりでも・・・・・・サッチさんすっごく気にしてくれてるのに、サトウだけ食べるなんて・・・・・ダメ、ですよね?」

「あー・・・」


 納得したように苦笑いするマルコさんに頷いてみせる。

 あたしとエースさんが怒られた時同じ空間にいて、サッチさんの主張を聞いていたマルコさんだからこそ、あたしが内緒にしたい訳を理解してもらえる。事情を知らない人を巻き込んで一緒に怒られてもらうのは申し訳ないもの。


「だからないしょ、なんです。あ!でも!食べるっていってもちょっとだけで――」

「心配しなくてもサッチには隠してやるよい」

「・・・・ほんと?」

「おう」

「みんなにも、しぃー、ですよ?」

「しぃー、だない」


 口の前に人差し指を立てて悪戯っぽく言ってみると、マルコさんもニヤリと笑ってマネて返してくれて、あたしは満足げに笑った。

 真面目なマルコさんだからダメと言われるかもと覚悟していた、その時はその時で諦めようとも思っていた、だって一番隊のマルコさんがダメって言ったら全隊に伝わって皆にも止められると思ったからだ。

・・・でもこれで心配はない。マルコさんが味方になってくれたら心強い。


「せっかくだ、わたあめ以外にも何かあったら食べようかねい」

「わたあめだけでいいです」

「? 焼きそばとか、食いたくねェのかよい?」

「気になりますけど、サッチさんのごはんとおやつが入らなくなっちゃいます」


 サッチさんのご飯は栄養だけじゃなく味もす〜〜〜っごく美味しいのだ! ほっぺたが落っこちる、という表現が当てはまるくらい悶絶ものの美味しさ。

 ワノ国出身のイゾウさんがいるせいか、日本食によく似たメニューも出てくるのも日本人としてとても嬉しい。


「サッチさんが作ったほうがおいしいもの。だから本当に食べたくなったら、やきそばもサッチさんに作ってもらいます。でも、わたあめはトクベツなどうぐがひつようなんですって」

「なるほどねい。わたあめ食べたいからって道具購入すんのは金の無駄だ。・・・・ナマエは本当に良い子だよい」

「えへへ」

「じゃあ、わたあめ食いに行くかよい」

「はーい! ふあふあー!」










「いいんだよ! 好きなモン食って・・・! ナマエが気にする必要はねェんだよ・・・!」

「ナマエの理解力をナメてたねェ、サッチ。まぁあの説明を一度で理解するとはおれも思わなかったがなァ」

「わたあめだって、おれの手にかかればわけない!」

「特別な道具が必要だと言っていただろ? あのマルコがそのためだけに金を出すわけがない」

「くそッ、あの金の鬼め・・・!」

「まぁ良かったじゃん。サッチが作った方が美味いって言ってもらえてさ!」

「そうだな、今回は大人しく船番でもしているといい。焼きそばでも何でも作ってな」

「あったりまえだ! このおれが美味っしい焼きそば作ってやる・・・・ッ!!!」



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おやつ
→おやつ(「オヤツ」「御八つ」とも)とは、間食のことを指す。おさんじとも呼ばれる。元々は八つ時(午後2時頃)に食べる間食の事であったが、間食の事を「おやつ」と呼ぶようになっていった。


未来編。
この後、サッチ以外の隊長たちもいそいそこっそりとマルコたちと合流する。頑張れサッチ。

(2014年5月18日 灯)


bacK

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