腹八分目





【能鷹】で“八”の可能性【腹八分目】







「何事にも限度というものがある」


 黄色い表面はつるりとして光を当てるとキラリと輝き、

 頂辺であったり底に沈んでいたりする茶色い液体は甘い芳香を放って誘いをかける。


「例え余裕があったとしても、自分の判断基準が正しいとは限らない。過信は良くない」


 風を吹きかけても震えるのに、意思を持ってつつけば震えが増すのは当然。

 けれどどんなに震えても形態を崩すことなく堂々としているのだから、それも魅力に変わる。


「そもそもお前はいつだって無理をし過ぎる。好きなものを極めようという心意気は感心するが、これとそれは別だ」


 すくえば綺麗な断面を残して離れ、口に含めばとろりと舌を撫でる不思議。

 アイスのように熱で溶けるわけじゃないのに、じわじわと口の中に広がる芳香と苦味のある蕩けるような甘さは絶妙。


「――聞いているのか、苗字」

「っ、はいッ!!! 聞いてますッ!!! 聞いてたからもう一個食べて良いかな手塚くんッ!!?」

「却下だ」


 目の前で仁王立ちしていた手塚くんが、元からあった眉間の皺をより濃くして溜息を吐いた。

 時はお昼休み、所は三年五組のあたしの教室、弁当を食べ終えたあたしは何故か手塚くんの説教を受けていた。


「う〜〜〜! あんまり常温に置いておくのもダメなんだよっ?!」

「先にお前が腹を下すぞ」

「大丈夫! 最高15個入ったから!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 あたしの机の上には食べ終えて綺麗に包み直した弁当箱と、様々な種類のプリンの・・・・・・・・・・カップ。


「定番のぷっちんから焼きプリン・苺プリン・コーヒープリン・紅茶プリンに期間限定のマンゴープリン、それにちょっとリッチなコンビニのプリンまで・・・・・・・・・なんという幸せのバリエーション!」


 ちなみに現時点で8つ胃に収めていて、残るは2つ。こんなにたくさん食べられるなんて久しぶりだったものだから、意識がどこかふわふわしていて、残るプリンたちを見つめる目がうっとりする。


「・・・・・大体、お前たちもだ。揃いも揃って」

「あははは、苗字さんの好物だって聞いたからさ。苗字さんにはこの間ボタンを縫ってもらったからお礼に」

「はいは〜〜い! オレも破いた体操服縫ってもらったお礼しにきたよ〜ん!」

「その、俺も。なかなか落ない親父の前掛けのシミ取ってもらったから・・・」

「我が家のアイロンが壊れていたから何枚かシャツを頼んだよ。クリーニング店に劣らない腕前だった」

「僕はカメラの持ち運びにちょうどいいサイズの鞄を作ってもらったから、材料代とお礼をね」

「「「「不二、ずるいッ!!!」」」」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 怒りの矛先を大石くんたちに変えた手塚くんは、彼らの回答が思いがけなかったようで沈黙した。

・・・言われてみれば最近何かと忙しかったね。ちーちゃんの唐突な我儘が発生して振り回されていたわけじゃないのに、毎日何かと注文とか依頼とかされてたし。


「そう言う手塚も、その手にある保冷バックはなに?」

「・・・・・・先月、生徒会の仕事を手伝ってもらったからな。だが俺の分は明日に回すとしよう」

「え! いやいやいや、大丈夫です! 有り難くいただきますッ!!」

「苗字さん、明日に回そうか」


 やんわり止めてくる不二くんの隣で、手塚くんの持つ保冷バックの中に残りの2つを収める大石くんがいて、空いたプリンカップをビニール袋にまとめる河村くんと菊丸くんがいて、保冷バックを後ろのロッカーに持っていく乾くんがいる。

 え、なんでそんなに手際良いの? なんでそんな息合わせて・・・・・ちょっ、あたしのプリンをどこに持って行くの・・・!





「名前〜♪ 約束してた『プルプル屋』の期間限定プリン1ダース持ってきたわよ♪」

「ちーちゃん大好き!」

「「「「「笹木(さん)ッ!!!」」」」」





 その後手塚くんだけでなく他の皆さんからも説教を受けて、あたしのプリンは没収された。

 あたしのプリン・・・・っ!!!



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腹八分目
→正しくは「腹八分目に医者要らず」。満腹するまで大食せずに、腹八分目ぐらいにしておけば、健康を損なうことなく、医者にかかるようなこともないというたとえ。暴飲暴食を戒めていうことわざ。

皆さんも気をつけましょう。

(2014年5月12日 灯)



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