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【空宙】で“八”の可能性【8888】
「すごい! よしむねくん!」
ぱちぱちぱちと夢中で手を叩くあたしの前で、吉宗くんはきゅっと眉を寄せた。
「・・・べつに、すごくない・・・・・」
「いやいやいや! すごいよ! ナッツくんそっくりかけてる!」
場所はお父さんの執務室のすぐ下のお庭。
今日のお勉強が終わったあたしと吉宗くんは、白いスケッチブックとクレヨンを手に暖かな日差しの下でお絵描きしていた。
・・・絵を描くのが好き、というワケじゃない。どっちかというとあたしは苦手だ。
でもこの小さな手は力が弱くて、前世で書きなれた文字だって今じゃミミズが這ったような線にしか見えない。アルファベットの綴りなんてそれはもう・・・・・眉間にシワ寄せて読んでくれる恭弥さんにヒヤヒヤする毎日です。
ということで、指の力を鍛える為に絵を描こうとね!思い立ったわけなのだけどね!
せっかくだから一緒に、と思って誘った吉宗くんの絵がそりゃあもう上手で!
あたし同様真っ直ぐな線を書けない紅葉のおててなのに・・・・・君ほんとに五歳?と聞きたいくらいナッツくんの特徴をとらえているのだ。
「すごい上手! よしむねくんはカンサツリョクがすぐれてるんだね!」
「・・・・・・・・・・」
興奮のままぱちぱち叩いて褒めまくるあたしに、吉宗くんはとうとう無言で目を逸らした。
気を悪くしたかな?と心配したけど・・・・・・ふいっと横向かれても赤くなったほっぺは丸見えなワケで。お異母姉ちゃんはニヨニヨと頬が緩んで仕方ないワケで。でもあまり言うと本気で機嫌を悪くするから言わないワケです! かわいいなまったく!
「ナッツくんよかったね〜。でもじっとしてくれたから、すごくかきやすかったよー。えらいねナッツくん」
「ガウ!」
じっとしててね!というお願いを聞き入れてお座りしてくれていたナッツくんもきちんと褒める。
そしたら嬉しそうに尻尾を振ってあたしの膝に前足をのっけてくる・・・・・・こっちもかわいいな!
「ワンッ」
「うん?・・・・・・・わっ、じろーくんすごい! 二足歩行できるのっ!?」
すぐ傍であがった声に振り返れば、小次郎くんを頭にのっけた次郎くんが直立していた。
子犬が二足歩行するのは見たことあるけど、見た目が秋田犬な次郎くんだと長く立っていられない・・・・・・かと思いきや結構長いな! さすが匣アニマル!
「ニャッ! ニャーッ!」
「どうし・・・・・うりちゃんっ!? ちょっ、もっかい見せてッ!!!」
くいくい裾を引っ張ってくる瓜ちゃんに飛ばした疑問符は、目の前でくるりんと回った彼女によって吹っ飛ばされた。
猫が身軽なのは世の知るところだけど、ボール(後で皆で遊ぼうと用意した)の上で宙返りする猫っているのッ!!? そのまま玉乗り続行してるしッ!!!
「すごいすごいすごいすごーいッ!!! なんでみんなそんなことできるの? おしえてもらったの? すごいなー、みんな芸たっしゃだね!」
得意げに芸を見せてくる皆にあたしは感心するばかりだ(マネしてボールに乗ろうとしたナッツくんが頭から転ぶのもある種の芸、かわいい)。
うむ。拍手するしかない。だってあたしの描いた絵なんて・・・・・人面ヒマワリにしか見えないよ。ナッツくんだと気づく人いるのかしら?
「なまえッ」
ふと、黒い影が差す。
庭師さんによって絶妙な距離感で植えられた木々、陰るはずがないあたしたちの頭上に影が差す。
吉宗くんの呼び声が早かったのか、あたしの超直感の知らせが早かったのか、顔を上げたあたしは、
「ガウァッ」
「10.0ーーーーッ!!!!」
5階から華麗に三回転二捻りを決めて地上に降り立ったベスターに歓声を上げた。
「う〜ん、やっぱ縄跳びも教えとけば良かったのなー」
「クソッ!! 帰ったら玉回しの特訓だぜ・・・ッ!!!」
「おい、ダメツナ。吉宗に真剣で彫刻でもさせるか?」
「雑技団結成させる気かよ・・・・ッ!!!」
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→某笑顔動画・某呟きなどで使用されるインターネットスラング。誰かの言動を褒める際に拍手をしている状況を表す言葉として、拍手の音「パチパチ」の変わりに「88」を適用している。
うちの【空宙】夢主はきっとおだて上手。
(2014年5月10日 灯)
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