地獄
【空宙】in鬼徹IFで“八”の可能性【地獄】
「何回死ぬんですか。貴女自殺趣味のドMなんですか」
「不可抗力です」
どうも、初っ端から毒舌吐かれた名前です。
特技は生き物のナンパと殺し屋お墨付きのかくれんぼ、どんな災害にも適応できる順応力。
一般人の娘からイタリア最大マフィアのボスの娘、世界的ハンターの娘etc・・・と幅広い経験を積んだ末。今日は某漫画でお馴染みの地獄にやってきております・・・・ちなみに初めてじゃありません。
(・・・・転生と帰還の合間の小休憩の如くたどり着いちゃうんだもんなー、この【鬼灯の冷徹】の世界に)
転生というものは、死後に別の存在として生まれ変わることをいうのであって、あたしのようにまだ死んでないのに転生させられることは非常に稀なんだそうだ。
そりゃそうだね。それもこれもあたしの魂の故郷である一度目の転生先(これは一度死んでからの転生)で十三歳になった時、何故か【緋色ウサギ】っていう非常識な白チョッキに懐中時計に緋い毛の二足歩行ウサギに気に入られてしまったせい。
まだ一生を終えていないのに、あの【緋色ウサギ】は別の世界へ転生させる。どうにかこうにか元の世界に帰れても、あの【緋色ウサギ】は何度でもあたしの前に現れて、異世界へ拉致っていく。
・・・今のところそれの対処ができないのが悔しい。
で、だ。
世界と世界を渡るのは結構魂に負担をかけるらしくて、更には死んで真っ白にリセットされるわけじゃないのに転生されるというのは、とても魂が疲弊するのだそうだ。
そこで【緋色ウサギ】とは別の存在があたしを哀れんで、小休憩がてら【鬼灯の冷徹】の世界に引き込んでいる可能性が高いのだそうだ。
ちなみにこれを言ったのはこの世界のお偉い様。
「いや〜、でも久しぶりだね、名前ちゃん。また綺麗になったね〜」
のほほんと親戚のおじさんのような気安さで声をかけてくれた、地獄の王 閻魔大王そのひとだったりする。
「閻魔様もお元気そうで」
「糖尿病まで秒読みですがね」
「今日のおやつは口当たり爽やかな野菜ジュースにしましょう。そうしましょう」
「えええぇッ!!! 鬼灯君ひどい! 名前ちゃんのおやつ楽しみにしてたのにッ!!」
いま隠したの差し入れのお菓子でしょッ!! ワシにもちょうだいよッ!!
・・・うーむ、なかなか察しが良いですね。でもここは心を鬼にして鬼灯様に譲渡、これで閻魔様が口にすることはないでしょう。欲しがる人の目の前で食べるドSな方だけど。
「桃饅・・・・・・まさか白澤さんから仙桃をもらっていないでしょうね」
「そんな勿体無い! あんな高価で貴重なもので作りませんよ」
「もらったことは否定しないんですね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
いやだって、この世界に来たら真っ先に白澤様に攫われるんだもの。
流石は『神獣』というべきか、やっぱり『獣』なんですねというべきか、あたしの生き物のナンパ成功率100%に見事に引っかかってしまった中国の妖怪の長な白澤様は誰よりも早くあたしの出現に気づいてあっさり攫っていく。
最初にこの世界に来た時だって、気がつけば桃源郷でウサギさんにモフられていたんだよ? 本来最初につく場所は三途之川なのに。
まぁすぐに裁判前に拉致られた亡者奪還として鬼灯様が駆けつけてくれたんだけどね。
白澤様お山の向こうまで蹴り飛ばされたんだけどね。
「体を壊されたらもともこうもありませんし、滞在している間はがんばってサポートしますから! ・・・という訳で早速お仕事ください!」
「「・・・・・・・・・・・」」
来て早々お仕事の催促をしたあたしに、お二人は揃って微妙な表情を作った。
地獄で働くのは鬼や獄卒等といった人外のもの。
閻魔様のように亡者というのは珍しくて、亡者でそれだから生霊寄りに位置するあたしのような存在が働くのは例がない。だから渋られる。
そもそも拷問ができないのだから、できる仕事事態少ない。主に書類の整理と運搬だ。
「あのね、名前ちゃん。君は無理に働かなくて良いんだよ? 死んでないから裁判を受けられないけど、君は天国にいてもおかしくない魂の持ち主なんだから」
「実際、天国から意見書が山のように届きますからね。・・・平和ボケした暇人どもが」
「うんうん、名前ちゃん人気者だよねー」
白澤様に攫われるのは今に始まったことじゃないけど、白澤様に拉致られた先の天国で様々な生き物に群がられている。
まぁ、これも今に始まったことじゃない。けれど群がってくるのが聖獣だったり神獣だったり霊獣だったりするものだからおっかない。
そんな存在に好かれてしまったものだから、あたしが“地獄”という罪人で溢れた場所にいることを良く思われていないらしい。
「・・・・・・・すみません」
「ああいや、名前ちゃんが謝ることはないんだよ! むしろ名前ちゃんが来てくれると助かるし!」
「この上司の処理能力が低いせいもありますが、地獄は年中多忙を極めていますからね」
「仕事増やしてすみません・・・」
うんうん、地獄ってほんっと忙しそうだよね。
三百近くの細かい部署に分かれているからややこしいし、何より広い! 何度迷子になりかけて獣獄卒さんたちに助けてもらったことか! ごめんなさい仕事の邪魔して!
だからあたしも多忙な人がいると知ってて一人のんびりしていられないというか、天国はすることがなくて落ち着かないというか、若干ワーカーホリック入ってるというか、なんというか・・・・・・すみません・・・・
(・・・・・うん、仕方ない。今回は大人しく天国に滞在しよう・・・・)
「本日は書類の配達をお願いしましょう」
「は・・・・・・えぇっ!!?」
「迷子になればその辺の獣獄卒が助けるでしょうが、仕事の手を止めさせるわけにはいきません。携帯を支給するのでGPS機能を使って自力でたどり着いてください。いいですね」
「は、はい!」
「では行ってらっしゃい」
「はい! 行ってきます!」
手の中に落ちた数枚の書類と白い携帯、あたしは弾けるように顔を上げて慌てて指示に従った。
ニコニコと手をする閻魔様の姿が視界の端に映ったけれど、それ以上にあたしの方がニコニコしている自覚があったからぺこりと頭を下げるだけで足早に法廷を後にした。
以降、あたしに関する天国からの意見書がこなくなったらしい。
あと、この世界に立ち寄る度、何故か白澤様より鬼灯様が迎えに来ていることが多くなった。
きっと、あたしが知ったらいけない話だから聞かない。
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地獄
→「八大地獄」と「八寒地獄」の二つに分かれ、更に二百七十二の細かい部署がある。
原作前。
何故か世界に立ち寄る度、鬼灯印の携帯が手の中にある不思議(笑)
(2014年10月18日 灯)