「なに、お前またマルコに何か言われたのかよ?」 「べっつにー」 「お得意だな。ほら、飲むか?」 「ありがと、サッチ」 ゆったり動く船。その甲板でエースと肩を並べて座り込む。そんな私たちを見かけてか、サッチはキッチンから飲み物を用意して来てくれた。今日はトロピカルジュースだ。 「この花食えんのか?」 「ばか、これはハイビスカスでしょ」 「なんだ、つまんねー」 ご丁寧にジュースの飾りとして挿してあったハイビスカスをエースは邪魔くさそうに取ると、それを耳元に掛けた。エースにとっては見た目の可愛さなんてどうでもいいらしい。 「お似合いね、その花」 「だろ?…ところでお前、マルコとはどうしたんだよ。結局よ」 「どうって…別にどうもしないよ」 「お前もさーいい加減素直になれよな!お前と喧嘩した後のマルコって機嫌悪くて参るんだぜ?」 「知らないしそんなことー」 「マルコのこと好きなら好きって言えばいいじゃねェか」 「……」 「素直じゃないねー」 傍から見れば、今の私とエースは恋愛トークで盛り上がる女同志に見えるだろう。私がマルコに何か言われれば、エースはいつもこうやって話を聞いてくれる。たぶん、後々自分にとばっちりがくるのが面倒なんだろうけど。 飲み干したグラスを横に置き、ふうっと一つ溜息を吐いて少し俯いたら、エースは「まあ頑張れよっ」なんて軽く私の頭を叩いて去って行った。叩くなばか、そう言おうと思って顔を上げたら、そこにはエースではなくてマルコの姿。 まずい。まだ喧嘩してからさほど時間が経ってないだけに、不穏な空気が流れてる。エースはマルコが来たから去って行ったらしく、少し離れたとこから私にガッツポーズを見せた。 何を頑張れってんだ。 「…何飲んでんだい」 「トロピカルジュース…サッチに貰えば?」 「いや、俺はいらねェ」 「あ、そ」 「マルコのこと好きなら好きって言えばいいじゃねェか」エースのさっきの台詞が頭から離れない。エースの言うことはごもっともなのだが、今の私にそんな素直さなんて欠片もないのだ。 「マルコってさ、」 「ん?」 「私のこと嫌いなの?」 「は?」 「嫌いなのかな、と思って」 あわよくば、向こうから言ってくれないかなんて思ってしまった私はズルイ女だろうか。それに、マルコも私の事好きでいてくれてるなんて保証はどこにもないのに。 「別に嫌いだなんて言ってねェだろい」 「でも、いつも怒るじゃん」 「それはお前がどーしようもねぇことばっかするからいけねェんだよい」 「…」 「嫌いなんて言った覚えはねェな」 じゃあ、好き?って可愛く聞けたら苦労しない。でも、自分で好きって言える気もしない。素直になればいい、ただそれだけのことなのに。そんな自分がもどかしくて、何だか苛々してきた。あぁもう、どうしよう。 「あっそ」 「怒られんのが嫌ならもうちょいしっかりしろい」 「…もういい、マルコのばーか」「……バカ?」 あ、やってしまった。 咄嗟に口から出た言葉は本当に可愛くないもので、思わず自分で驚いてしまった。マルコはぴくぴくと眉を顰め、どうやら結構怒らせてしまったらしい。 「いや、あの…ちがくて…」 「バカってなんだ、バカって」 「違うのマルコ、ちょっと間違って…」 「真面目な話するから少しは反省したのかと思ったら…だいたい、何で間違って"バカ"なんて言葉が出てくるんだい」 「つい、その」 「本音が出たってか」 「ちがうの、だから」 じりじりと責め寄ってきたマルコと船柵に挟まれ、どうやら私に逃げ場はないらしい。マルコから視線を逸らした先に見えたエースとサッチは何だか面白そうに私たちの方を指さしてにやにやしている。 ああ、そうか。この状況、会話さえ聞いてなければ私がマルコにキスを迫られてるようにでも見えるのか。 「おい」 「…はい」 「バカにバカって言われんのが一番腹立つんだよい」 「ばかって誰だし」 「お前だバカ」 「ばかじゃないもん、ばか」 「この女…っ!」 「ぐぇえっ!!マルコに殺されるー!!!」 ちょっと口答えしたら、マルコの腕にがっちり首を挟まれた。痛い痛い!ってその腕を叩いても離してくれやしない。ああもう、何で間違ったのよ私のばか。やっぱりばかは私だった。 愛の言葉を間違えた (マルコー、いちゃいちゃして見せつけかよー) (そこにもバカがいたかよい…!) 2010.09.06 kai. 「ごめんなさい。」様に提出 素敵な企画に参加させていただきありがとうございました! |