「いい加減、アイツに近づくのはやめろ」

いいな、と念を押す低い声が
二人だけの車内に響いた。


(またか…)

聞き飽きてしまったその言葉に、はぁ…と小さく溜め息を漏すと
重い空気から逃れるように
ごみごみした歌舞伎町の町並みへと視線を移した。

巡視のためだからと言って
ノロノロと走るパトカーは
景色が代わり映えしなくて、退屈してしまう。


「おい、総悟 聞いてんのか」
「…かぃ…」
「あ?」

「―――旦那の、なにがいけないんですかィ…」

窓に額をくっつけながら
小さく呟いただけのつもりだったのだが
余計に土方の気に障ったらしい。

「っ…てめぇ」
「あ!」

その時、町のなかに
ふわふわと風に揺れる銀髪を見つけた。

「旦那だ…!」

考えるよりも先に体が動く。
シートベルトを外そうとした俺の手の上に
土方さんの大きな手が重なった。

「ひじかたさ…」
『行くな』

余裕のない声に、一瞬動きが止まる。

「…行くなよ、頼むからさ…」


ぎゅっと俺の手を握る大きな手は
微かに震えていて
俺のことを本気で心配してくれているんだと分かる。

…でも、でも…


「ごめんなせぇ、」

スルリと土方さんのうでを抜け出し
シートベルトを外す。

「俺が会いたくて仕方ねぇんでさ…!」
「総悟…っ!」


速度が遅いのをいいことに
車から飛び出れば
後ろからパトカーの急ブレーキと
土方さんが俺を呼ぶ声がしたけど、今は気にしていられない。

最近は出張続きだったために
旦那とはもう一週間ろくに会えていないのだ。

会いたい、会いたい…会いたい…っ

土方さんに見つからないように
人混みのなかに紛れて旦那を探す。


「あ…!」

甘味屋の軒先で、銀髪頭の男が
もさもさと団子を食べている。

見つけた…!


「――だ、んな…っ!」
『あれ、沖田くんじゃん。久しぶり』


旦那は相変わらず死んだ魚のような目をしているが
それでも“座る?”と
自分の隣を指さしてくれる優しさに
胸がきゅう…っと苦しくなった。

「銀さんね、沖田くんに
言わなきゃなんねーことがあんの」
「言わなきゃならないこと?」


ポスンと旦那の隣に腰を下ろすと
ふわりとせっけんのような香りがした。


「…旦那、なんかいい匂いしやすねィ」

くんくんと
匂いを嗅ぐふりをしてまでも
旦那の近くに行きたいと思う俺は異常なんだろうか。


「なにかつけてますかィ?」
「いや、なんもつけてねぇと思うけど…」

一瞬考えるような素振りをしたあと、
旦那は小さく「あ、」と呟いた。

「…どうしたんでィ?」
「あー…」

うろたえながら
赤くなった顔を手の甲で顔を隠す旦那。

「…いや、たぶん、その…
新八の、匂いかもしんねーわ…」

少し照れたようなその反応。



――――あぁ、
なんだ…そういうことか―――…

「…眼鏡と…上手く、いったんですね…」




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