Listen









ある日、空に向かって歌う女性がいた。
たった一人で。

誰にも聴いてもらえずとも、一人孤独にさいなまれようとも、
空だけがこの歌を聴いてくれればよいと。

しかし心のどこかでは、
この歌声が誰かに届けばよいと。
この世界の誰かが聴いてくれればよいと。

彼女は歌った。
たった一人で。

歌に呼応するように、風が歌う。

普段の彼女からは想像できない、穏やかで優しい歌。
風と共に、彼女は歌い続けた。

この歌声が誰かに届けばよいと。
この世界の誰かが聴いてくれればよいと。

「…陛下」

心地よい低音が耳を打つ。歌が唐突に途切れた。

聞かれてしまったか。
そう苦笑する彼女の表情は、冷たい仮面に閉ざされてはいなかった。








草原にたたずんでいたリースは、ある歌を思い出した。
いまここには、カリンツたちもジャスティーナたちもいない。
みんな忙しいのだ。


――寂しい。


空に向かってリースは歌った。

かつてこの歌を聴いてくれたのは空だけではなかった。
自分には大切な人がいたはずだ。
この歌を「綺麗だ」といってくれた人がいたはずだ。

歌に呼応するように、風が歌う。

「   」
低音が耳を打った。

この歌声が大切なあの人に届けばよいと。
この世界のどこかの大切なあの人が聴いてくれればよいと。


リースはいつの間にか、泣いていた。



Fin.





2011.7.6

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