繋いだ舌先









「こうも簡単に、落ちるとはな」


エペンダードの城を背景にそびえ立つ桜。

辺りが夜の暗闇に包まれ、桜だけが妖しく咲き乱れていた。


「い、や」


その木の根元に座るマナは体中を火照らせていた。
酒に酔わされたのである。

衣服の肩紐は肘の辺りまで落ち、胸を覆う物はさらしだけとなる。
ふるふると首を振ると、結い上げていた髪がはらりと一房、肩に落ちた。

その横で、アサドは彼女の手の甲にキスを落とし、
口角をつり上げて笑う。


「助けを求めたいなら、そうすればいい。オルハを呼べばいい。
ただ、その格好で、というのを己が許すならな」


かり、と真っ白な歯が、指先を甘噛みする。
電流のような痺れが広がり、慌てて手を引こうとするも、込められていた力は予想以上に強かった。


「…っにを」

「お前は、オルハにやるにはもったいない」


ぐっと手を引かれ、噛みつくような勢いで、首筋に唇を寄せられる。

この間と同じ場所に、紅い花が咲いた。


「白い肌に、よく似合う」


耳朶に直接落とされた言葉に、背筋が震える。

絡みつく声。視線。指先。


流されては、いけない。


酔っていてもそのくらいは理解できた。だが。
分かっているのと実行できるのとは別問題なのだ。


「食え」


アサドは酒と共に置いてあった砂糖菓子をくわえ、そのまま深く口づけてきた。


「っ、ん、…!」


強く抱き寄せられ、後頭部も抱き込むように固定される。
瞼を伏せた彼の表情からは、いつもの高慢な影は消えていた。

グラグラとする意識の中、目を開けていることに多少の罪悪感を覚え、
そっと瞼を伏せた。


その瞬間、全身を強烈な感覚が襲う。
目を閉じたことで、感覚が研ぎ澄まされた。

甘い菓子と共に入り込んできた舌は、どこか爬虫類的に長く、薄く、だが熱かった。


「ふ…ぅ


思わず鼻にかかった声が漏れ、嫌悪と羞恥で頭が熱くなる。

すがるように彼の身体に手を回す。熱い涙が目尻から落ちた。

舌先がふれあう。ピアスの感触が奇妙な違和感を醸し出す。

唾液を飲む暇すら与えられず、当然の帰結として、口の端からはどちらのものか分からない透明が伝った。

アサドは一言も声を漏らさない。

ゆっくりと身体が傾ぎ、舌先で繋がったまま、背に芝生の冷たい感触を覚えた。

ほんの少しだけ、薄く、瞼を開くと、アサドもこちらを見ていた。
長い睫毛(まつげ)。その表情にはいつもの笑みが戻っている。

少し身体の力を抜いた。
もう今日はアサドに何もかも任せてしまおうと思った。

酒のせいにしてしまおうと思った。


ゆっくりと目を閉じる。

大丈夫。オルハだと思えば恐くない。


アサドがゆっくりと、艶めかしく、服の裾から手を入れるのも止めようとはしなかった。


「…止めないのか?」

「大丈夫、恐くない」


自分に言い聞かせるように、マナは言葉に乗せた。



ただ桜だけが、
その秘め事の証人を知っていた。

ヤソン最強の戦士。
彼は唇を噛みしめて背を向けた。



Fin.




この間のリベンジです!
ちょっとは甘くなったでしょうか…;

アサド好きです。主にあの爬虫類っぽい妖しい感じが(
オルハは愛してます。特にあのストイックなのに受けっぽい感じが((

未熟な文章すみません。精進します…!

2011.6.29

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