月明かりの回廊









コツ、


自分ではない誰かの足音を聞き、マナは足を止める。
広いエペンダードの城の廊下。そこに響いた固い靴音。


だが気配が、ない。


「誰?」


しん、と静まりかえる回廊。
ただただ冷たい月明かりが窓から差し込むだけで。

最低限の照明しかないので薄暗い。
幻想的で、恐い。

思わず、一歩。
後ずさると、背がとんっとなにかに当たった。


「っ!」


驚いて振り返る暇もなく、腰に片手を回され、抱き込むように力強く引かれた。

愉悦を含んだ囁きが、背後から耳朶に絡みつく。

「こんなところで夜遊びか」

「ひゃ…」

中低音に震わされた甘い痺れが、耳から首筋を伝って肩まで流れる。

「相変わらず素直な反応だな。相当男に慣れてないと見える」

「…んぅ、そこで話さないでくださ…っ」

「クククッ…無理な相談だ」

アサドはマナの首筋に、尖った漆黒の義指をあてがうように突きつけた。
さっきとは別の痺れが広がり、なにをするのかと身構える。

義指は顎先で止まり、くっと斜め後ろを向かされる。
まるで不自然な体勢に困惑し、下からアサドを見上げた。

アサドは喉を鳴らして嗤(わら)った。

「誘ってでもいるのか?」

「なっ、わけ…!」

かぁ、と赤面するのが自分でも分かった。
オルハではない、彼を前にして、だ。

薄暗い中でも、アサドにはそれがはっきりと見えた。

「ククク…まさかオルハはお前に手を出さなかったのか?」

「…あなたには関係な、ぃ」

腰に回された手に力が込められる。
先ほどよりもより密着する形になる。

「ではこれは?」

「ひゃっ!?」

首筋の赤い聖痕を、爬虫類のような冷たい舌が舐め上げた。

「不器用な…」

アサドはその痕を見て苦笑した。

「そっ、れは、虫に噛まれただけです!」

「…確かめてみるか?」

彼は聖痕のすぐ傍に唇を寄せ、囁いた。

「っ、やめっ…!」

気付いた時には遅かった。
ちくり、と痛みが広がり、唇が離される。

「…同じだっただろう?」

アサドの問いに、マナは力なく首を振る。

「頑固だな。そんなに奴が恋しいか」

「…悪いですか…命の恩人を好きになることが…」

「別に。ただ、」


俺にすれば良いものをと思っただけだ。


「えっ…」

振り向こうとした瞬間、すっと彼の感触が消える。
同時に、回廊の照明が全て落ちる。

「きゃっ!?」

真っ暗闇。何も見えなくなってしまった。

「今度、夕食でもご一緒いたしましょう」

クククッ、と笑い声が遠ざかる。

「えっ、ちょっ、ちょっと!」

遠く続く壁に声が反響して、彼がどの方向へ歩いているのか分からない。


「帰れないんですけどー!」


今度こそ誰もいなくなった回廊に、マナの悲痛な叫びが響いた。



fin.




あ、甘くない!ι
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とおる様、リクありがとうございましたoyz
遅くなったくせにこんな駄文でごめんなさいでしたoyz


2011.5.30

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