嫉妬と独占欲と衝動と純愛












「マナ、よくやったな」


オルハとマナは、ヤソンロベンとガルートの境界付近で起こった戦闘に勝利した。

鎧姿で膝に手をつき、肩で息をするマナに、彼――オルハ・デュランは声を掛けた。
いつもは恐ろしく冷酷な瞳が、今はこころなしか柔らかく見えた。


「…や…それほどの、ことは…」


対するマナの息は、相当乱れていた。

それもそのはず。
マナは、たった1人で10人の人間を相手に戦い、
さらに彼らが従えていた魔物をも打ち払ったのだ。


「お前がいなければ、奴らを全滅させることは難しかった。
陛下もさぞお喜びのことだろう」


以前からヤソンと見れば見境無く襲ってくる賊だったからな、
と付け足すオルハ。

マナは肩を上下させながら頷く。


「良かった…陛下の、お役に、立てて」

「…」


すっ、とオルハの手が腰のあたりに回された。
そのときになって、自分にもう立っているほどの力も残されていないことに気が付く。


「ごめん、なさ…」


膝に力が入らない。
彼の腕に支えられていなければ、その場にくずおれてしまいそうだった。


「…マナ」


それだけではない。
意識が朦朧とし、目の前が霞む。


「あ…れ」

「マナ、しっかりしろ…」




世界が歪み、ぐらりと揺れた。



オルハの呼びかけが聞こえたのを最後に、

意識が遠のいていく――…。















――…さか………とは…

――……れ…貴様には………い…


「ん――…」


誰かが言い争っている声が聞こえた。
1人はオルハ。だがもう1人は…。

ゆっくりと目を開け、声の主を捜す。

すると、起き上がるまでもなく、2人の姿を発見した。


「…あ…」

「おはよう眠り姫」


声を発したもう一人は、オルハと同じ四天王のアサドだった。
ねっとりと絡みつくような口調と視線は、ある意味彼の個性だ。

普段はほとんど言葉を交わすこともない2人が、マナの横たわるベットの両脇に立って、なにやら言い争っている。

というよりは、アサドがオルハをからかっているようにも見える。


「確かにオルハが目を掛けるだけのことはある」


アサドが妖しげに笑った。


「…どういう意味だ」


対するオルハの声は厳かだった。
アサドは喉を鳴らして嗤った。

ひとり、話題になじめないマナだけが、2人を交互にみつめていた。


「そんな恐い目をなさることはないでしょう。
ただ、なぜ彼女と二人きりで出掛けたのかということですよ」

「黙れ。先ほども言ったが貴様には関係ない」

「では…彼女は貴官のなんだと?」


アサドの目に宿る光が、微妙に変わる。
それをもってしても、オルハの禁欲的な仮面は崩れなかった。


「マナは……ただの、部下だ」


マナは、心臓をわしづかみにされたような感情を味わった。

ただの部下。
だって彼の瞳に映るのはいつも陛下、ただ一人だった。
分かってはいたが、突きつけられた現実が重くのしかかる。


「…聞いたか?」


アサドは、絡みつくような瞳をこちらへ向けた。


「ただの部下だと。どう思う?」

「…別に…当たり前のお答えかと」


肘をついて起き上がりながら、答える。
心に嘘をついて。


「ならば逆にお前はどう思う」

「私は…」


オルハは血相も変えずこちらを見ていた。
一瞬視線が合いそうになり、自然な動きでそれを避けた。

言葉を選びつつ、話す。


「…オルハ…様、は、尊敬できる上官だと思っております」

「そうか」


アサドは口角をつり上げた。

そして突然、マナの上に覆い被さるように手と膝をつき、
彼女をもう一度ベットへ押し倒した。


「では俺が手に入れても、文句はないか」

「…っ」


鼻先が触れるか触れないかの距離まで急接近してきたアサド。
マナは驚きに目を瞠(みは)る。

これにはさすがのオルハもはっとした。

アサドの、黒の金属的光沢を持つ義指が、マナの顎先に掛けられた。
軽く上を向かされる。


「…ッや」


マナは顔を背けようとした。
しかし、力強い指が、それを許さない。

徐々に距離は縮められてゆく。その口元には、冷酷で酷薄な笑みさえ浮かべられていた。
精一杯、肩を押し返すように抵抗したが、効果はなかった。

マナは諦めざるを得なかった。
固く目をつぶり、意識を現実からそらす。


「……離せ」


触れるか触れないかの寸前で、オルハがアサドの手首をつかんだ。
アサドは悪びれず、顔を上げ、なおも嗤う。


「ただの部下でしょう。編成を組み替えろと言うわけでもあるまいし、肉体的にどう手を出そうと、貴官には関係ない」

「…任務に差し支えては困る」


オルハの手に、ギリギリと力が込められる。


「マナを好き勝手にする権利は、貴様にはない」

「その程度の配慮はしますよ。
彼女に過度の負担を掛けるつもりはありません」


アサドは、わざとオルハに見せつけるような角度で、
マナの耳朶を甘噛みした。


「…っあ…」


マナの全身に、ぞわりとした感触が広がる。
思わず声を漏らしてしまい、自分の甘ったるい声に嫌悪感を覚える。


「…や、めっ…」


マナの呼吸は荒くなってゆく。

このままではアサドの思うつぼだと分かっていても、
襲いかかる刺激を、これ以上求めないようにするのが精一杯だった。

まるで爬虫類のような舌が、耳の後ろあたりを舐め上げる。
不意の感触にびくっと肩が震えた。


「彼女も喜んでいるようですよ。今の反応をご覧になりましたか。
ほら…これほど顔を赤らめて快感を受け入れている。なぁマナ?」

「ッ…違っ…」

「…お前が」


瞬間的にオルハの雰囲気が一変した。


「お前がマナの名を呼ぶな」


二人の武人の視線がかち合った。
刹那、静かな怒りが爆発し、違う何かに火を付けた。

オルハは、マナをアサドから庇うかのように抱き寄せ、
ベットから引きずり下ろした。


「っ…」


そのまま床にたたきつけられるかと覚悟をしていたマナだったが、
オルハがしっかりと支えてくれていたため衝撃はなかった。

しかし、傷が痛む。
オルハの腕が触れる横腹は、浅からぬ傷を負った場所だった。


「っ…オルハ…」


いつもとは違う、たがが外れたようなオルハに戸惑う。
そして、相変わらずの絡みつくような視線に晒され、とりあえず逃げ出したい衝動にかられる。

オルハの腕から逃げだそうと身じろぐが、彼は腕を緩めてはくれなかった。
それどころか、


「…マナ」


逆に強めるばかりだ。
傷に深く触れられ、マナはとっさにオルハの服の裾をつかむ。

オルハはそれに気付き、アサドを睨み付けたまま片腕を上へずらした。

アサドは笑声を漏らし、立ち上がる。


「せいぜい彼女の期待に答えてやることですね」


ごゆっくり、と部屋を出て行くアサド。

オルハはそれを忌々しげな視線で見送る。…最初から計算済みだったか、と。


「オルハ…」


マナは不安を込めた瞳で彼を見上げた。


「……」


彼の中での数瞬の葛藤の後、マナはベットに戻された。


「…早く、傷を治せ」


捨て台詞のようにして、彼はくるりと背を向ける。
――このまま行ってしまうのだろうか。

マナは軽く目を伏せた。

と、その時。


「…」

「ッ、


背を向けていたはずの彼が、首筋に舌を這わせてきた。
そして、一目見て分かる位置に痕を付けた。


「ちょっ…、ひぁ…や、これっ…」


熱い、熱を帯びた舌に首筋をくすぐられ、まともに言葉を発することができない。

オルハは、耳朶に低い囁きを流し込んだ。


「…お前は、奴には渡さん」

「な……、んっ」


最後にオルハはマナの唇をそっと舐め、帰って行った。

マナは火照る上体を起こし、首筋に残る聖痕に手を触れた。

彼は一体、何を思ったのかと。
何の気まぐれだったのかと。










fin.









私としては、オルハは陛下に一途だと思いますw←

だから夢主は…陛下と同じくらい、大切な人ですかね^^*
「妹」とも似てるかもw

でも本当に大切な存在。
いざとなればエペンダードくらい捨てて逃げて欲しいです(

お目汚し失礼いたしましたoyz


2011.01.15

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