時の魔道士 | ナノ




Prologue

奥深く霧深い森の中に一つの豪邸があった。その豪邸は周りから隠されるようにひっそりと建てられているけれど、その割にはとても豪勢で華やかな薔薇園に囲まれていた。そして、その森の周辺の住民からは年がら年中霧に包まれた土地だと思われていたが、不思議とその豪邸の周りだけは霧が晴れていた。

そんな廷の薔薇園の片隅に一人の少年が倒れているのを屋敷の主であるルシウス・マルフォイは発見して眉を顰めた。

ルシウス・マルフォイは魔法使いで貴族だ。本人自身が並大抵の魔法使いよりも腕がよいし、森と屋敷には先祖代々に渡って許可無き者が立ち入れぬよう魔法がかけてある。だから、見覚えなき少年がこのような場所まで入ってこれるはずがないのだ。何より、少年の格好はルシウスにとって珍妙に見えた。それはそう、力なき卑しい魔法の欠片も使うことのできない人間、マグル共の格好だ。

ルシウスのような純血主義者にとって、マグルとは卑しき存在である。己の力不足を認めず、才ある魔法使いを羨み、それだけならまだしも遂には化け物呼ばわりするどうしようもない愚族。妬みを隠しもせず異端だの悪だのなんだと決め付けて、自身がいったいなぜこの世に存在しているのか分からないような矮小な生き物でありながら魔法族への迫害などという出来もしないことに必死になる穢らわしき人の形をした何か。その癖に数だけ多いから付け上がるうっとおしい存在。
マグルなんかが目の前にいる。それだけでルシウスの不況を買うのに充分であったし、それでなくとも少年はルシウスとその愛する妻と息子の住む屋敷に、マグルなんかが入ってはならない領域に忍び込んだというを犯している。
或いはこの少年は穢れた血かもしれない。マグルの様な下賎な者から生まれた癖に何故か魔法を使える忌まわしき者。穢れた血はいっそマグルよりもおぞましいと言える。それか血を裏切る者という可能性もある。同じ純潔の魔法使いだというのにマグルを擁護する理解できない、したくもない奴らだ。

どうやって少年がこの屋敷に入れたのか、どうして倒れているのかという疑問も頭をよぎったが、ルシウスはまずこの少年を排除することを考え、少年がわずかに身じろぎしたことさえうっとおしく思い無言で杖を振るう。
ルシウスの杖先から赤い光線が飛び出して少年へと向かう。
だが、その少年はルシウスの常識を嘲笑うかのようにその赤いの光線が当たるまでのわずかな合間に少し体を起こし右手を奮った。

「な…んだと!?」
少年が奮った手には炎が宿っていた。そして、炎は呪文を消し去った。それは有り得ないことだった。有り得てはならないことだった。杖も使わずに炎を燈し、それだけでなく呪文を消し去るだなんてそんなことが有り得ていいはずがなかった。
魔法使いや魔女というのはことごとく杖を使って魔法を使う。例外があるとすれば、魔法道具だ。あれには予め魔法を仕込んで置いておき利用する。だが、炎を出しルシウスの失神呪文を無効化するようなモノが存在しただろうか?

少年からの反撃がないことをいいことに杖を構えたままに今起きた事実に対する反芻をしようとして一つだけ心当たりを思い出す。半信半疑だったソレにハッと少年を目を開いて見てみるも少年はまた意識を失ったようで動く様子はない。けれどある一点で確信したのだった。



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