夢短編 | ナノ
放課後の屋上に風が吹く。
その風と共に聞こえてきた音に少女は目を細める。
「アホらし」
ポツリと呟いた声は誰にも届いていない。
体が痛む。動きたくないと全身が叫んでいる。
「 」
沢田綱吉は何かを言おうとして、しかしそれは音にならなかった。
ことの起こりは二週間ほど前だ。
クラスでも仲が良かった女の子、佐倉麻里ちゃんから告白された。
断ったけれど、明るくて優しくてよく笑う好感の持てる人だと思ってた。
だから次の日からオレにイジメられたと言い出した彼女に戸惑った。
そして次々にそうとれる言動をしてきて、皆のオレへの暴力が始まった。
いつの間にか獄寺君と山本までそれに加わってて悲しくなった。
ナンデシンジテクレナイノ?と。
「よっ!」
かけられた声に顔を上げるとそこにはあまり見馴れない顔があった。
肩ほどまでの人工的な金色の髪に端整な顔立ち、ニッと笑うところは猫を連想させてくる。
確か隣のクラスで不良少女と有名な人物だったはずだ。
名前は確か高橋安希。
「えっと、な、に?」
思わず体が震える。殴られるかもしれない。
不良に理不尽な暴力を奮われたこと記憶なんて沢山ある。
そんなオレに気付いたのか目の前で手を慌てて振りだした。
「あー、うん。まずはんな怯えんな。とって食おうゆーわけじゃねーんだし。なっ」
「そう、言われても…」
(あれ?もしかして悪い人じゃないかも)
「まーいーや、一つ聞きたい。お前にとって獄寺隼人と山本武はまだ仲間か」
「えっ?」
質問された意味が分からない。
どうしてそんなことを訊くのだろうか?
「だーかーらーてめえにとってアイツラはまだ大事かってきーてんだ!答えろ」
今度は苛立ち紛れの声で、怖い。
怖い、けど、凄く真っ直ぐな目でオレを見てくる。
応えないとと思った。
「うん。今は誤解してるだけだから」
「ならいっか」
やっぱり彼女の心情は分からない。
じゃーなと言って何処かへ行こうとした彼女がいきなり振り向く。
「そうだ。泣きたい時は泣くのがいいらしーぜ。漫画の受け売りだけどな」
え?
不良らしくない言動にやっぱり驚く。
獄寺君だってオレにだけは優しかったけど。
見ているとだんだん少女の顔に朱色が刺してくる。
「何だよ!そりゃ俺だって馴れねーこと言ったとは思うけどな。だー笑うな!」
そして、そのまま走っていってしまったのは涙にボヤけてよく見えなかった。
気に食わない、それが理由
(やっぱり、悪い人じゃない)