1
夢を見た
それは凄く残酷な
「ここドコー!?」
少年の叫びが森に響いた。
《旅立ち》
森の中に、一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が止まっていた。
後輪の両脇と上に旅荷物を積んだモトラドで、センタースタンドで立っていた。
モトラドの目の前で、運転手が深々とお辞儀をしていた。
「じゃあ今まで、何から何まで本当にありがとうございました」
年は十代中頃。
重力に逆らう茶髪と大きな琥珀色の目に優しげな面立ちを持つ。
黒いレザージャケットを着て、首には指輪が一つついたネックレスをして、腰を太いベルトで締めている。
右の腿にハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)のホルスターがあって、オートマチックが二丁収まっていた。
その足下には猫のような生き物がいた。
橙色の体で白いサンバイザーをしている。
「いいのよ」
老婆がそう言って、微笑む。
華奢だが背筋の伸びた体に、後ろで一つにまとめられた白髪。
スリムなパンツに、白いシャツ、その上に薄緑色のカーディガンを羽織っている。
その背中、腰のベルトの位置に、革製の小さなポーチのようなものがついて、カーディガンの裾が引っかかっていた。
そしてそれはポーチではなく、カバーつきのホルスターだった。
右手で抜けるように収まっている、小型で大口径のハンド・パースエイダーのグリップが見えた。
バレルの短いリヴォルバーだった。
「お仲間見つかると良いわね」
老婆に激励されて、
「はい師匠」
と運転手は嬉しそうに返事した。
「グルルル」
猫のような生き物も返事をした。
荒野の中を一台のモトラドが走っていた。
「ねぇツナ。良かったの?」
モトラドにツナと呼ばれた人物が必死になってモトラドを運転しながら、何が?エルメス、と聞き返した。
「旅に出て」
ピシャリとエルメスが言い放ち、続ける。
「だってさ、ツナって直ぐに死にそうだし」
容赦ない言葉に、酷いなあとツナは苦笑した。
「これでもやるときはやるよ。たぶん。今まではそうするしかなかったからそうしたし」
「消えそーな声で言われても信用な〜い」
「大丈夫だよ。エルメス」
大丈夫、もう一度その言葉を紡ぎ少年は目的地の分からない旅へと思いを馳せる。
少年の名前は沢田綱吉。
彼が元いた世界ではとあるマフィアのボス候補であった。
それが何故こんなところで旅に出るような羽目になったかと言うと、実はツナ自身はっきり分かっていない。
気がついたら異世界(たぶん)にいて、仲間が誰もいなくて、たまたま親切なおばあさん(師匠と呼べと言われた)に助けられていた。
未来に跳んだり二百年くらい昔の御先祖様にあったり何でもありな人生だから、異世界くらい驚かないなんてことはなく混乱する頭をどうにかこうにか慰めて、彼はようやく夢を思い出した。
その夢の中で彼は彼の御先祖に会った。
それでいろいろと説明されたが、ほとんど理解出来なかったが、いつかは理解しないといけない気がして記憶の端に留めて忘れないようにしている。
彼に理解出来たのは、やはりここは自分のいた世界ではなくて、暫くは帰れないらしい(時が来たら自然と帰れるそうだ。時っていつ?)こと。
それから、自分だけでなく守護者のみんなもバラバラにこの世界にいること。
そうと分かれば彼の決断は早かった。
仲間を探したい。
そして、師匠に旅の手ほどきを受け今に至る。
「絶対に見つける」
ツナはそう呟いた。
[←] [→]
back