一つの忠告
その意味は…………
《霧の片割れ》
ボロボロに破壊された一室に無傷でたたずむ白い人影と血を流し床に膝着く濃紫色の人影があった。
「なんて恐ろしい能力でしょう。流石ミルフィオーレの総大将というべきですかね。敵いませんよ。」
「また心にもないこと言っちゃってぇ、食えないなあ。骸君」
「クフフ」
明らかに勝敗の決まったこの状況下であっても笑みを崩さない六道骸に白蘭は告げる。
「君のこの戦いでの最優先の目的は勝つことじゃない。謎に包まれていた僕の戦闘データをこうして戦うことで君は見た。その戦闘データをどこかにいる君の本体、又はクローム髑髏やレオ君のような君のバックアップとして機能する別の本体に持ち帰れればそれでよしってところだろう?」
「ほう。面白い見解ですね。しかし、そうだとしたら?」
「叶わないよ、それ。この部屋には特殊な結界が張り巡らされていてね。光や電気の波は愚か、思念の類いも通さないって言ったら信じてくれる?」
「クフフ。何を言っているやら僕にはさっぱり理解出来ませんね」
「フッ」
「クフフフフ。楽しかったですよ」
骸は憑依させた己の思念をここから脱出させようとして、出来なかった。
白蘭の告げたことが虚言などではないと悟り、ようやく焦りを見せた骸に白蘭は笑みを深める。
「実体化を解いてここからずらかろうとしたってダメだから。骸君。この部屋は全てが遮断されてるっていってんじゃん。ボンゴレリングを持ってない君には興味ないのね。いっそ、本当の死を迎えちゃおっか」
白蘭が持つマーレリングがその主の心とシンクロしたかのように煌めいく。
「バイバイ」
その言葉と同時にドンっと白い煙が六道骸を包み込む。
「はてさて、ここはどこでしょうか?」
煙が晴れたその場所にいたのは白い制服をきて倒れている青年が一人と、やはり食えない笑みを浮かべる、先ほどまでよりもかなり若い六道骸。
「ミルフィオーレの本拠地さ。って言っても君には分からないか。はじめまして、過去の六道骸君。僕は白蘭。ミルフィオーレファミリーのボスさ」
本来ならばここにいるはずのない人物に、白蘭は驚きを隠して律儀に答えた。
「それより何で君がここにいるのかな?復讐者の牢獄に繋がれた君が、一体どうやって?水牢にまで十年バズーカが飛んできただなんて、言わないよね」
「おやおや、妙な質問をなさいますね。誰が牢獄に繋がれていると?」
「君に決まっているじゃないか。骸君。君が沢田綱吉に負けて今だ脱獄していないことはマフィア界じゃ有名だよ」
「まさか。冥府の番人ならともかくマフィアの番人に知り合いなんていませんよ」
白蘭はどこか根本的に話が噛み合わなっていないと疑問に思う。
彼は本当に過去の六道骸なのだろうか、と。
「元に僕の体はここにあるでしょう」
「幻覚だよ。見抜けないわけないじゃん」
「本当に?」
骸の見慣れない指輪がはまった手に霧が集まり、それは三叉の槍へと姿を変える。
「クフフ。どうしてでしょうね。貴方の顔を見るとどうも虫酸が走る」
「奇遇だね。僕もだよ」
トン、と三叉が床を叩く音がする。
どうせ骸はここから逃げられない、先に倒してしまったって問題ないだろう、と白蘭が考えた瞬間に腹に衝撃を受けた。
「ガハッ」
「幻覚に魅せられるのは知覚を奪われたということです」
口から血を吐き、白蘭は己の腹に刺さる三叉を見た。
そして、いつの間にか背後にいた骸の気配が霧散してゆく。
「綱吉君のシナリオを崩す気はありませんからね。今は、このくらいにしてあげますよ。せいぜい頑張って下さいね?白蘭」
霧が晴れた時、当然白蘭は無傷でそこに骸の姿はない。
白蘭は後遺症のようにまだ痛む腹を無視して笑った。
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