腕の中の鬼は、 高銀

「では、そういう事で」


「晋助、晋助」
会合が終わり船に戻ってきたと同時に、俺の後ろに居たそいつは深く被っていたフードを脱いだ。
月光のような銀髪がきらきらと輝いている。
何だ、と目だけで問うと、そいつはへにゃりと困ったように笑った。
「ダメだった」
「……またか?」
はぁと深く溜め息をつくと、怒られると思っているのか、銀時は上目遣いにこちらの様子を伺っていた。
「お前に対しては怒っちゃいねぇよ。教えてくれてありがとな」
ふわふわの髪を撫でてやると、銀時は瞳を細めてふにゃっと笑った。
「晋助、銀時、どうでござったか?」
俺達の帰還を聞きつけた万斉がやって来たので、駄目だと伝える。
「表面上は話が付いたが、銀時が駄目だって言ってやがるからな。やられる前に潰せ」
「了解した。……それにしても、銀時のそれはどうなっているのでござるか?」
「動物の勘ってやつだろ」
銀時は話についていけず、きょとんとした顔で紅い瞳を瞬かせていた。

鬼兵隊の総督は鬼を飼っている。
そんな噂が流れ出したのは二年程前からの事だ。
鬼ではなく妖だの悪魔だの言われているが、その正体は誰も知らない。
ならば何故そんな噂が流れているかというと、二年前から鬼兵隊を裏切ろうとしたり売ろうとした奴等が、それを実行する前に殺されるからだ。
それも、たった一人相手に。
だから、鬼兵隊総督は鬼を飼っていて、その鬼が鬼兵隊に害をなすものを殺しているという噂が流れた。
その正体は、この銀髪の少年だ。
二年程前、戦場跡地でさ迷っていたところを気紛れで拾い、名を持っていなかったので銀時と名付けた。
拾ってきた当初は無表情で言葉も殆ど話せない奴だったが、今では褒められれば笑うし言葉も話すようになった。
最近では慣れてきた銀時の“駄目”は、必ず当たる。
最初は、船で開いた会合に来ていた奴を銀時が殺そうとしたのがきっかけだったと思う。
その時は、銀時がそいつを殺す前に殺気に気付いて、相手に悟られる前に止めた。
何故そんな事をしようとしたのかと聞いたら、晋助殺すから殺すと返ってきて、首を傾げた。
だが、それから暫くして、そいつが裏切った。
もしやと思った俺は変装させた銀時を会合へと連れていった。
突然茶菓子を投げたと思えばそれに毒が入っていたり、急に刀を抜いたかと思えば周りが囲まれていたり、銀時が駄目だと言った奴は必ず裏切ったりと。
銀時の勘は、恐ろしい程よく当たった。
今では、鬼兵隊になくてはならない人物だ。

「晋助、晋助、甘いのは?」
自室に戻ると、銀時が甘味をねだってきた。
「ほら、」
戸棚に入っていた大福をやると、ぱっと表情を明るくしてビリビリと大福の包みを破く。
「ます!」
ぱちんっと手を合わせて頭を下げた銀時は、大福にかぶり付く。
口の周りに白い粉が付いているがお構いなしに、栗鼠のように頬を膨らませて食べ続ける。
この姿を見て、銀時が鬼兵隊の鬼だと思うものはいないだろう。
「ふぁれもぉひにひふ?」
「食ってから話せ」
「んぅ、」
ごっくんと大福を飲み込んだ銀時は、ぺろりと口の周りを舐めてから口を開いた。
「あれも殺しにいく?」
「いや、いい」
他の奴に殺らせる。
そう伝えると、銀時はこてんと首を傾げた。
「近い、ないね」
最近、殺しに行かせていないと言いたいのだろう。
確かに、銀時に殺らせた方が早くて確実な上、こちらの損失は無いのだが、
「お前は俺の傍に居ればいいんだよ。殺しなんて、他の奴でも出来る」
ぐいっと銀時の身体を引き寄せて抱き締めた。
戦場から拾ってきたこいつは人間というより動物に近く、自分に害が無く食べ物をくれると分かると誰にでも懐く。
一番は拾ってきた俺だが、いつ他の奴のところに行ってしまうか気が気じゃない。
戦力としてだけではなく、俺にとってこいつは失いたくない大切な存在になってしまったから。
「銀時は、晋助の腕ん中いるよ?」
「あァ、そうだな」
「ずっと、いるよ?」
「当たり前だ。他の奴んとこ行ったら殺すからな」
「は~い」
合わせた口の中からは大福の味がして、甘ェと呟けば、腕の中の銀色の鬼は紅い瞳を細め、ふわりと幸せそうに笑った。



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