溶けた欠片は 高銀

「銀、銀、銀、銀、銀、これでもう居なくならないよな?俺の側にずっと居るんだよな?だって約束の相手はもう居ないんだから、ずっと一緒に。俺と、ずっと、ずっと!」
俺を抱きしめて、ぶつぶつと同じような言葉を繰り返している晋。
約束の相手。
そういえば、戦時中もそういう事を言っていた気がする。
晋がこんな事を言うようになったのは、一体いつからだったか。
なんて事を考えてる俺を、小太は何か言いたげに見ている。
正確には、俺と晋を、だけど。
声に出さず口だけを動かして、せっかく付き合ってくれたのにごめんと伝えると、ようやく瞳を和らげて、気にするなと返ってきた。
今日は、約束があったのだ。
と言っても、そんなに大した約束ではないが。
しんせんぐみの二人に、かぶきちょうを案内してもらっただけ。
特にその二人と仲が良いという訳ではなく、前に偶然知り合いになっただけだ。
友人を使うと直ぐに晋にバレてしまうので、知り合いだと知られてない二人に頼んだだけ。
まさか、こんなに早くにバレるとは思わなかったけど。
俺が船を抜け出すと晋が怒るので、バレないように小太に晋を船から連れ出してもらっていた。
その先で、偶然小太が連れ出していてくれていた晋と遭遇してしまったのだ。本当に、運が悪い。
あの二人は捕まえるとかどうとか言っていたけど、もしかして敵だったのだろうか。
なら、こんなに怒るのも仕方ないのかもしれない。無断で外に出た上、敵と一緒に居たのだから。
怒っている、とはまた違う感じがするけど。
まぁいいや。よく分からないし、分かったってどうしようもない。
けど、こうなるんなら、これからは不用意に約束をしないようにしないと。
また子ちゃんとか、数少ない晋以外の話し相手が居なくなってしまうかもしれない。
何かが違う気がしたけど、何が違うのか分からない。
それにしても、
「約束の相手はもう居ないんだから、銀は俺のだよな?ずっと俺の側に居て、居なくならないんだよな?だってもう居ないんだから、だから、銀は俺と一緒で」
ずっと一緒に居ると約束したのに、何がそんなに不安なのだろうか。
小太が部下に連絡して後片付けをさせてるのを横目に見ながら、俺はそんな事を考えていた。
いつも退屈していたから、下らない事を小難しく考えるのが好きになっていた。
けれど、晋がこうなってしまった理由はいくら考えても思い付かない。
先生の死がきっかけかとも思ったけど、その後も落ち込んでいたり怒りに満ちていたりはしてもあんな瞳はしなかった。
晋は更に強く俺を抱きしめて、さっきしんせんぐみの二人に買ってもらった、そふとくりーむ、という物が手から落ちた。
べちゃっと潰れたそれには砂や小石がたくさん付いて、拾い上げたとしても食べれはしないだろう。
落ちてしまったそふとくりーむと、その後ろに見える赤い物体。
あ~ぁ、もったいない。
晋に抱きしめられたまま、俺はそう思った。
狂気に瞳を染めた晋。ぐちゃぐちゃに潰れた、元は生き物だっただろうそれ。慣れたように指示をしている小太。
端から見れば、とても可笑しな光景だろう。
でも一番可笑しいのは、こんな状況にありながらも、そふとくりーむという物をもう一度買いに行く事は可能かと考えている俺だろう。
「……………こんな筈じゃ、なかったのに」
もっと美味しい物を食べたかったし、色んな場所を見たかった。
思わず呟くと、晋が強く強く、俺の骨を折るつもりなんじゃないかと思うくらいの強さで俺を抱きしめた。
この様子だと、この後すぐにでも船は空に浮くだろう。せっかく、久しぶりに外に出れる良い機会だったのに。
はぁ、と、小さくため息を吐いて晋の背中に腕を回した。
しょうがないから、そふとくりーむはまた今度にしよう。
そのまま考えを放棄して、俺は大人しく晋が落ち着くのを待っていた。




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