小さな欠片を拾い集めて 高銀+百鬼夜行

いつもと変わらない、この部屋で一人待っている時間。
万斉達は俺が退屈しないようにとよく来てくれるが、万斉達にも仕事はあるし、晋が居ない時に来すぎると晋の機嫌が悪くなる。
だから、晋が居ない時は大抵一人だ。
する事といえば、窓の外の景色を眺めるか、船の中の気配を追い掛けるか。
本を読む事もあるけれど、一度読んだ物は全て暗記してしまう為、空の上に浮いている此処ではあまり読む機会は無い。
てれび、という物を辰が用意してくれた事はあったけど、俺が外を見るのを晋が嫌がったし、俺もあまり好きではなかったから今はもう無い。
耐えれない程ではないけれど、退屈だ。
「…………、」
そう思いながら息を吐いた時、微かに聞こえた音に、俺は小さく笑みを浮かべた。
段々と近付いてくる音。
普通の人間なら聞こえないかもしれないが、俺は人より耳が良かったから。
すっと襖が開き現れたのは人………ではなく、人形。
「タイチョウサマ、アソボウ!アソボウ!」
カタカタと音を立てながら喋る、小さな膝丈くらいの人形。
これは、百鬼夜行の内の一人、葉月の人形だ。
百鬼は、船ではなく色んな所に飛んでいる事の方が多い。
外に出れない銀の代わりに色々な所へ行って、土産話を持って帰ってくる。
手紙や電話のやり取りはよくあるが、直接会う回数は戦時中に比べると格段に減った。
だから葉月は、鬼兵隊の船に自分の使う人形を置いていった。
本当ならそれを操る葉月が近くに居ないと動けない筈なのだが、立夏が弄って葉月が居なくとも短時間なら動けるように改良した。
人のように動く絡繰りというのも世界には在るようだが、立夏も葉月もそういうのは嫌いだと言って、それは作ろうとしなかった。
紛い物は嫌い、だそうだ。
「タイチョウサマ、アソボウ!ボクト、アソボウ!」
近付いてきた人形を撫でてやる。
葉月の遊ぼうとは、殺し合いの事だ。
でも、
「…………今日は、ままごと、しよう」
「ママゴト?」
「………そ、」

しばらくままごとをしていたら、葉月の人形は動かなくなった。
動かなくなった人形を棚に置いて、小さく息を吐く。
葉月の遊ぼうとは殺し合いの事だが、自分に対してだけはそれが違う事に気が付いていた。
葉月自身は気付いていない。でも、葉月は本気で俺を殺そうとした事は無い。
遊びと殺しの区別がついていないのに、俺に対してだけはそれが無い。
ここに人形を置いていったという事で、それがよく分かる。
本当に殺し合いという名の遊びをしたいだけなら、ここに連絡手段ともいえる人形を置いていく事は無いのだ。
百鬼夜行の主とも言える俺が此処に籠るという事は、外で遊び、つまり殺したい放題。
他の百鬼に注意を受けても、連絡手段が無ければ俺からは何も言われてないからと言う事が出来るのだ。
それなのに、人形を置いていった。
電話も使えず字も怪しい葉月にとっては、唯一の連絡手段。
本人に自覚は無いと思うが、俺との繋がりが切れる事を恐れたのだろう。
だから、俺と遊びたいからという理由を付けて人形を置いていった。
本当に遊びたいだけなら、俺以外を望んだ方が良いのに。
だって、船に置いた人形が動けるのはほんの一時だけ。普通に手近の奴を殺した方が良いだろう。
それなのに、人形が無くなりそうになる度に持ってくるか立夏に送らせる。
もう成人を迎えているだろうに、子供のような言動のままの葉月。
きっと、葉月の中の何かが成長を拒んでいるのだろう。
今まで自分が殺してきた奴等が遊んでくれていた訳ではなく、自分を殺そうとしていたのだと理解したくないのだろう。
俺と出会った時には既にそうだったから、何があったかは分からない。
でも、もう葉月が戦わなくても良いようになった。
攘夷戦争の時は気付かせて葉月が戦えなくなったらと気付かせるのを躊躇っていたけど、今は違う。
葉月は気付いていないけど、殺し合い以外の本当の“遊び”というのに葉月は興味を示し始めている。
俺もそんなのを知らなかったけど晋達に教えてもらって、無駄にも見えていた行為が楽しいという事に気付いた。
だから、葉月にも気付いてほしい。
晋達とは違うけど、葉月も自分にとっては大切な存在なのだから。
そのためには、葉月ともっと話し合うのが一番手っ取り早いのだが………。
「……………晋、」
今の俺は此処から出る事が出来ないから。
ふぅ、と息を吐く。
葉月の前に、晋の方をどうにかしなければいけないようだ。
葉月と違って、晋の方は原因が分からない。長くかかりそうな予感に、もう一度深い溜め息を吐いた。



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