秘密の部屋 | ナノ

▼ 11(06)


ルーシーに手紙を書くと、直ぐにアンバーに【最も強力な魔法薬】を持たせてくれた。
何に使うのか聞きたがったが、ラピスが"勉強したい"と書くと、彼女はあっさり納得した。

夕食後、三階の女子トイレを集合場所にしてきたハリー達。
三階の女子トイレは、"嘆きのマートル"のいる所であり、去年の学年末にフレッドとジョージが便座を拝借してきた所だ。
去年便座を返しに行った時は、"嘆きのマートル"は留守だったらしい。

――夕食後、ラピスは【最も強力な魔法薬】の本を持って三階の女子トイレに向かった。
三階の女子トイレは、ミセス・ノリスが石にされた現場の傍。
此処に来るのは、事件が起きた以来初めてだ。
ラピスは壁に書かれた文字を見て、あの時のことを思い出した。
不安に駆られ、体中に鳥肌が立つ。
ラピスはペンダントをきゅっと握った。
もう一度壁を見て、ラピスはふと気が付いた。
壁に大きな亀裂が入っている。
あの時、こんなものはあっただろうか――否、なかった。
後から入ったものだろうか。

「ラピス?」

女子トイレから、ひょこっとハリーが顔を出した。

「ごきげんよう」
「待ってたよ」

トイレに入ると、ロンとハーマイオニーは座り込んで寛いでいた。

「やぁ、ラピス」

ロンが片手を上げて微笑む。
ハーマイオニーはラピスの持っている、【最も強力な魔法薬】の入った鞄に視線が釘付けだ。

「誰よこの女!」

突然、ばたんと音がして、マートルが個室から出てきてラピスに怒鳴った。
彼女は、お世辞でも綺麗や可愛いとは言えない容姿で、瓶底程の厚さで大きな眼鏡をかけている。

「何よ!あんたも私をからかいに来たのね!」
「違うわ」

ヒステリックなマートルに、ラピスは冷静に答える。

「ラピスは僕達の友達なんだ。君をからかったりしない」

興奮状態のマートルを、ハリーはなんとか宥めようとしたが駄目だった。

「何よ、ちょっと美人だからって!何よ、同じ黒髪なのに、何で……う、うわぁぁぁん!」

マートルは急に泣き叫んで、個室に閉じ籠ってしまった。
訳の分からないラピスは、唖然としている。

「放っておけよ、ああいう奴なんだ」

ロンがやれやれと首を振る。
成る程、此処に人が来ない理由が分かった。

「ルーシー、送ってくれたのね!」
「ええ」

鞄から、【最も強力な魔法薬】を取り出しながらラピスは頷く。

「マルフォイはどう?何か勘付かれたりしてないかしら」
「大丈夫よ」

彼もは口を滑らせて以降、いつも以上に不快な仮面を貼り付け続けている。

「僕達、壁の辺りを調べたんだけど、変なところがいくつかあった」

ハリーが腰を下ろしながら言った。

「焼け焦げがいくつもあって、変な動きをする蜘蛛がいた」
「変な動き?」
「蜘蛛が蟻の行列みたいに一列になって外に逃げてたのよ」

蜘蛛は、通常そのような行動を取らない。
何故――

「私も、不思議に思ったことがあるの」
「何?」
「あの壁に入った亀裂、いつ入ったのかしら?誰があんなこと…」
「それがね、貴女が倒れる直前、急に亀裂が入ったのよ」

とハーマイオニー。
ハリーは、亀裂を入れたのはラピスだと思っていた。
去年、ダンブルドアからラピスの特別な才能について聞いたし、それを目の当たりにしたこともあった。
しかし、彼女は覚えていなかった。
だったら誰なのだろう。

「分からないことだらけね。でも、ポリジュース薬を使ってマルフォイから聞き出せば全て分かるはずよ」
「そうね」

【最も強力な魔法薬】は、恐ろしく強力な魔法薬ばかりが載っていた。(時折、ロンが「うえっ」と言った)

「あったわ」
「なんて複雑なのかしら……」

二年生では未だ習わない魔法薬だ。

「大丈夫かな?」
「魔法薬学が得意なラピスがいるんですもの。大丈夫よ」

ロンの言葉に、ハーマイオニーが言った。
成績自体は悪いが、ラピスは魔法薬学がとても優秀だと言う事は周知の事実だ。

「材料を入手するのが大変だわ」

クサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギは生徒用の棚にある。

「二角獣の角の粉末、毒ツルヘビの皮の千切りなんて生徒用の棚にないわ」

ハーマイオニーが顔を顰めた。

「スネイプ教授の個人用保管倉庫にならあるでしょうね」
「それって盗むってこと?そんなこと出来るの?」

さらっと言いのけるラピスに、ロンが不安げに言った。

「やるしかないわね」

ラピスの言葉に、ハーマイオニーがうんうん頷いた。

「材料が手に入ったとしても、少し時間がかかるわね」
「満月草は満月に摘まなければいけないし、クサカゲロウは二十一日煎じなくてはいけないわ。一か月ね」
「一か月も?マルフォイはその間に学校中のマグル生まれの半分を襲ってしまうよ!」

ロンが絶望的に言った。

「私が彼を見張ってるわ。そんなことさせない」

ラピスが言った。
絶対にさせない。
もし、彼がスリザリンの継承者だったとして、その時は彼と対立することになる。
クィレルの時のように、彼を――
ラピスはペンダントをきゅっと握った。

「……ラピス?…ラピス?」
「え?」
「明日、ラピスの初試合ねって」

ラピスが思考を巡らせているうちに、いつの間にか話しが変わっていたようだ。
そして、明日がクィディッチの試合だったと言うことを思い出す。
ドラコと対立する前に、ハリーと対立しなければ。

「頑張ってね、ラピス」
「ええ」

ハーマイオニーの言葉に微笑み、先程まで頭にあった思考を振り払った。


11 駆け引きと考察(たとえ偽りでも、)

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