秘密の部屋 | ナノ

▼ 08(02)


「君のユニフォームだ」

マーカスからグリーンのそれを手渡される。
とうとう、この日が来てしまった。
夕食の後召集がかかり、更衣室に来てみれば、なんと明日の土曜日から練習を開始すると言うのだ。
まだ他の寮は練習を開始していないだろう。
ハリーからは何も聞いていない。

「明日、朝食を食べた後、八時に集合だ」

ドラコは、「初めての練習だ」と嬉しそうだ。
一方、ラピスは思い悩んだまま。
ルシウスから贈られた箒は、呪いがかかっていないか念入りに調べた。
箒の心配はないだろう。
しかし、一番肝心なことを解決出来ずに練習することになってしまった。

「やっとプレイ出来るんだ」

ドラコは上機嫌だ。
まったく呑気で羨ましい。
しかし一つだけ、ラピスの心を和らげるニュースがあった。
その夜届いたルーシーからの手紙に、驚くことが書いてあった。
何でも、母であるヴィヴィアンも、スリザリン・チームのチェイサーを務めていたらしい。
ヴィヴィアンは、ラピスとは反対の活溌な少女だったらしく、チームの誰よりも活躍していたと言う。
それを知って、少し胸が軽くなったラピス。
嬉しさが込み上げると共に、少し、"頑張ってみよう"と思えたのだ。
しかし、問題は未だ解決していない。
その夜はあまり眠れなかった。

――朝食をとる為大広間に行ったが、ハリーがいないことに気が付く。
ロンも、ハーマイオニーも、フレッドもジョージもだ。
何故……?
隣の席の生徒とお喋りをしているリーに聞いてみようと席を立ったが、ドラコに引っ張られてしまった。

「ラピス、全然食べていないじゃないか」
「食欲がないの」
「食べなくちゃ駄目だ。体力が持たない」
「分かったから、そんなによそうのはよしてちょうだい」

ドラコが皿にどんどんシリアルを入れるので、ラピスは慌てて言った。
彼は興奮が治まらないらしく、ラピスを見つめる瞳が"早く早く"と急かしていた。
ハリー達が何処にいるのか分からないのならば、見られてしまう可能性が高くなる。
報告する前に見られてしまうのは、なんとなく避けたかった。
自身の口で言わなければいけないと思った。

上機嫌のドラコにぐいぐい引っ張られ、更衣室まで来てしまった。
随分前から使用されていない、スリザリンの女子更衣室で着替えを済ます。
全身鏡で自身を映すと、いつもとは違った雰囲気の自分がいた。
同じローブを母も着ていたのだと、記憶の中の母を頭の中で重ねる。
グリーンのローブは、母にもラピスにも、とても似合っていた。
いつも背中に流したままの長い黒髪を束ねると、首と背中がすーすーとした。

「すごく似合っているよ…」

ラピスの髪を結んだ姿を、ユニフォーム姿を初めて見たドラコの頬は、ピンクに染まっていた。
普段隠された耳や項が、顕になるからだろう。
そして、クィディッチのユニフォームは、普段の彼女の雰囲気とは全く異なる。

「貴方も似合っていてよ」

ドラコにはグリーンがよく似合う。
少し微笑むと、彼は照れたように笑った。
フリントが遅れて来て、少し遅めにチームが集合した。
箒を持ち、競技場に向かう。

「まずはドラコとラピスに合わせて軽くアップだ」

前を歩く上級生の後に、ラピスとドラコも続く。

「僕、昨夜は楽しみで眠れなかったんだ」

頬を綻ばせて言うドラコは、いつもより少し幼く見える。
それ程までに楽しみにしていた彼が、少し可愛いと思った。

「君は?緊張はしないと思うけど――」

そこで、ドラコは言葉を止めた。
競技場の方を見つめて、徐々に彼の顔が嫌悪に染まる。
ラピスは彼の視線の先を追って、言葉を失った。
競技場には、先客がいたのだ。
赤いローブを着た、グリフィンドール・チームがいた。

「――どうして、」

やっと出てきた言葉。
何故、グリフィンドールが?
今日はスリザリンが予約したのではないの?

「何でグリフィンドールがいるんだ」

ドラコが苦々しく言った。

「マーカス、」

前を歩く上級生に追いつき、ラピスは彼を呼んだ。

「今日はスリザリンが予約したのではないの?」
「そうさ」
「それなのに、何故彼等がいるの?」
「大丈夫さ、俺達が話しをつけるから。俺達にはこれがある」

マーカスは嫌な笑みを浮かべて、小さな紙をひらひら見せた。
あれは何だろうか。
話しをつけるって、一体何を言うの……?

会いたくない人に会ってしまう。
どんな顔をして会えば良いのだろう。
何と言えば良いのだろう。
きっと、スリザリンとグリフィンドールで言い争いになるに違いない。
どうすれば――……
ラピスはペンダントをきゅっと握った。

prev / next

[ back ]