「…えーと、……黙っていてごめん」
「………」
「悪気はなかったんだ」
「………」
「ラピス?」
「……え?」
我に返ってラピスはドラコを見る。
更衣室から寮への帰り道、ラピスは黙ったままだった。
ハリー達に何と言おうか、言うべきなのか悩んでいたからだ。
ドラコがチェイサーの件を黙っていたことさえ忘れて、彼女は考え込んでいた。
「その…ごめん。黙っていて」
「話せば良かったじゃない」
「前もって話せば君は断る」
その通りだ。
だからと言って、こんなやり方は卑怯だ。
「フリント達に頼まれたんだ…君をチームに入れて欲しいって」
「………」
「君が、身体を動かすことより本を読んでいる方が好きなのは知ってるけど、でも――」
眉を下げるドラコがあまりにも不憫に思えて、まるでこちらが悪いことをしているように思えてくる。
ラピスは溜息を吐いた。
「もう良いわ」
「許してくれるのかい?」
ドラコの表情が明るくなる。
「怒っていたわけじゃないもの。呆れていただけ」
「…ごめん」
明るくなった表情が、直ぐにまた暗くなる。
「もうエントリーシートを提出してしまったんだもの。仕方がないわ」
チェイサーになってしまったことは仕方がない。
一年だけだ、直ぐに終わるだろう。
問題は、ハリー達だ。
問題と思っているのは自身だけで、彼等は何も思わないかもしれない。
けれど――……
「嬉しくないのかい?」
「……どうかしら」
分からない。
嬉しくも悲しくもないのだ。
「きっと楽しいよ」
ドラコが微笑む。
「きっと好きになるさ」
「その自信はどこからくるのかしら」
「それは……僕が好きだからさ」
呆れた。
自分が"こう"ならば他人も"そう"だと思っているのか。
「だって、ポッターだってクィディッチが好きだろう?」
そうだ。
ハリーもクィディッチが好きで、クィディッチを見ている時、話しをしている時、プレイしている時はとても輝いている。
ロンも、ジョージもフレッドも、ハーマイオニーやジニーだって好きだろう。
「……そうね」
大切な人達が"好き"だと言うことに、触れてみるのも悪くないかもしれない。
「だから、もっと誇るべきだよ。君はスカウトされたんだ」
「貴方は?」
「僕は……チーム選抜をパスしたんだ」
気まずそうに、恥ずかしそうに、小さな声で言った。
彼が恥ずかしそうにする理由が理解出来ない。
「個別に選抜に参加したことをフリントに黙っていてくれと頼んだら、君をチームに入れることを条件に出されたんだ」
「何故口止めなんてするの」
「それは……いきなり抜擢された方が、かっこ良いじゃないか」
「………馬鹿ね」
「なっ――……」
ドラコは反論しようと口を開いたが、微笑む彼女に、そんな気は直ぐに失せてしまった。
彼女は女の子だから分からないんだ、突然抜擢された方がかっこ良いに決まってる。
皆きっと、ポッターより僕に夢中になるさ。
彼女だって――……
「きっと好きになるさ、僕が好きなんだから」
自信満々に言うドラコ。
だから何故そう言う結論に辿り着くのだろう、とラピスは思う。
しかし、少なくとも彼の自己中心的思想は、演技でも虚偽でもなく、彼の本心だろう。
「……馬鹿ね」
くすりと笑う彼女と、一緒にプレイ出来ることが何より楽しみだと、ドラコは思った。
07 自己中心的思想論(きっと、好きになる)
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