中編小説(そっと、きゅっと。) | ナノ

▼ 04


「しわしわ角のスノーカックのことでパパに手紙を書こうと思ってたけど、良いよ。図書館で書けば良いもン」
「ありがとう、ルーナ」

胸元で手を合わせていたニナは、彼女の返事に顔をパッと明るくした。
図書館に行きたかったのだが、パドマはまたしてもパーバティとの約束があるそうで、一緒に行くのを断られてしまった。
一人で行動して、またマルフォイにばったり出会ってしまったり、話しかけられたりしたら、どうしたら良いのか分からない。
それに、あの出来事以来、図書館がトラウマのようになりつつある。
だから、誰か一緒に行ってくれる人を探していたのだ。
丁度良いところに、ルーナがスキップをして現れたので、ニナは彼女に頼み込んだのだだった。

「今朝、ザ・クィブラーの最新号がパパから届いたんだ。アンタもいる?」
「ええ、いただくわ」

三流雑誌と呼ばれている、彼女の父親が編集長をしているザ・クィブラーを、ニナは時折彼女から貰っていた。
パドマは怪しげな眼で雑誌を見るが、時折面白いことが書いてあったりするのだ。
日刊預言者新聞が嘘っぱちに書いた記事でも、この雑誌には真実が書いてあったりもする。
勿論、ニナには理解出来ない記事も多いが。

「おっ、"ルーニー"だ!」

スキップをしたルーナが、廊下の角を曲がったところで、男の子の声が聞こえた。
ニナの眉間に、僅かに皺が寄った。

「彼女をそう呼ぶのは止めなさい」
「うわ!」

角から突然出てきたニナに、ルーナと同級生と思われるスリザリン生二人が飛び上がった。
まさか、彼女が後ろにいるとは思わなかったようだ。
ルーナは"変わり者"だと虐めに合っている。
ニナは、それが気に食わなかった。
人それぞれ考え方や信じるものが違うのは当たり前のことなのに、彼女を馬鹿馬鹿しいあだ名で呼んだり、持ち物を隠したりすることが許せない。

「私が杖を取り出す前に、さっさと行きなさい」
「ひいっ!」
「早く行こう!」

ニナがローブの内ポケットに手を滑らせて言うと、スリザリン生は慌てて走って行った。

「ありがと」

ルーナは何でもないように言って、先に図書館へ入って行った。
彼女は、何を言われても言い返したりやり返したりしない。
彼女のその優しさに漬け込む連中が、ニナは腹が立つのだ。

「……あったわ。良かった、まだ借りられていなかったみたい」

【魔法の史跡】、【イギリスにおける、マグルの家庭生活と社会的慣習】、他二冊程を本棚から持って来たニナは、机の上に積み上げた。

「【マグル学】を選択してるの?」
「いいえ。ハーマイオニーが興味深い授業だと教えてくれたから、気になっていたのよ」

ニナはマグルと同じ生活を送って来たので、【マグル学】を選択しなかったが、彼女に話しを聞いて、魔法族視点の【マグル学】に興味が湧いたのだ。

「ふうん」

ルーナは不思議な声色でそう言うと、父親宛ての手紙を書くことを再開した。
先週は手紙を書いていないので、自身もそろそろ日本の両親に手紙を書こうと思った。

「どうしてスリザリン生を避けてるの?」

三十分も経ったところで、手紙を書き終えたとみられるルーナが、突然口を開いた。

「え?」
「アンタが最近やたらスリザリン生を嫌がってるって、噂になってるもン」

そんなこと、噂にしないで欲しい。
何と答えたら良いか分からず、ニナは下唇を少し噛んだ。

「アンタはマルフォイが嫌いなんだ」
「え?」

ルーナは、時折突然、鋭いことを言う。
誰もが言いにくいと思うことも、彼女はそれを言ってのける。
彼女のそういうことろが、ニナは好きでもあった。

「……嫌いと言うわけではないのよ」
「そう?アタシはちょっと苦手だけど」

先程のように、彼女を馬鹿にするスリザリン生は多い。

「純血純血って、くだらないことに拘ってるんだもン」

苦手なのはそう言う理由なの?
突っ込みたくなって、彼女らしいと納得する。
そして、ふと気が付く。

彼も、あのマルフォイも、勿論純血主義だ。
マグルやマグル生まれを見下して、純血が一番偉いと思っている。
ニナは、純血とマグルのハーフで。
彼が、それを知らないわけはない筈だ。
きっと知っていて、随分前から知っている筈で。
それなのに――

「アタシ思うんだけど、多分マルフォイは、随分前からアンタのこと好いてたと思うナ」

彼は、純血主義で。
彼は、ニナが純血とマグルのハーフだと知っていて。
それなのに、彼は、私を――

「アンタは気付いてないかもしれないけど、アンタがあの人から隠れてる時、あの人ちょっと悲しそうな顔してる」

そしてルーナは、またしても衝撃的なことを言うのだ。

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